温泉は「デジタルデトックス」できる場でもあります。スマートフォンやパソコンから離れて、身ひとつで湯につかり、ぼんやり静かな時を過ごします。自然湧出(ゆうしゅつ)の温泉であれば、耳を澄ますと「ぷくぷく、ピチピチ」と、地球から温泉が湧きあがる音が聞こえてきます。そんな温泉のささやきを聞きたくて、昨秋、北海道の秘境温泉・然別(しかりべつ)峡 かんの温泉(鹿追町)へ出かけました。
(トップ写真:「イコロ・ボッカの湯」はアイヌ語で「宝物が湧き上がる」という意味)
行き止まりの山道、大雪山系のロッジ風一軒宿
北海道中央部に位置する大雪山国立公園エリアは自然豊かな温泉が点在しています。然別峡かんの温泉は、大雨や台風など幾度もの自然災害から復活を遂げてきた愛すべき秘境温泉です。山道へ入ったあたりから携帯電話は圏外となり、少し心細くなったころ、道の行き止まりに宿があります。宿の中は、秘境の一軒宿と思えないほど、おしゃれなロッジ風です。ひとり宿泊ができるのはシングルとツインルーム。ツインにはペレットストーブやチェア、デスクなどもあって、ゆっくり滞在したくなります。
ロビーでは、衛星インターネットのWi-Fiがつながります。窓辺のチェアに腰かけて、ちょっとだけメールをチェックしたら、いさぎよく携帯の電源を切って温泉へ向かいます。
13本の自噴源泉を11の湯船で湯めぐり
宿泊棟にあるイコロ・ボッカの湯は、「宝物が湧き上がる」という意味のアイヌ語で、足元からとめどなく源泉が自然湧出する岩風呂です。薄にごりの湯のあちこちから無数の小さい湯玉が湧き上がり、ぷくぷく、ピチピチと温泉がおしゃべりしているような音が響きます。泉質はナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉、㏗7.8中性。薄緑色の湯でつるりとした感触です。源泉温度が熱めなので、湯船の中に手作りの熱交換装置が沈めてあります。ぐるぐると巻いた管の中に冷たい山の水を通すことで、加水せずに湧きたての源泉を楽しめるように工夫しています。湯上がりの肌はしっとりつやつやで、うれしくなります。
別棟の温泉棟は、日帰り入浴もできる施設になっていて、内湯、露天風呂あわせて10の湯船があり、男女入れ替えで1泊で全てをめぐれるようになっています。敷地のあちこちから湧く13本の自噴源泉を駆使して、異なる源泉をかけ流しで入り比べができるのです。色や香りや感触が異なる温泉なので、全ての湯船を制覇しないともったいないと、まるで温泉トライアスロンのように湯船を転々と移動します。手前は、イナンクルアンナー(アイヌ語で「幸せになろうね」)の湯。茶褐色のにごり湯で、ぬるめでやわらかな癒やし系。
奥のイナンクルアンノー(アイヌ語で「幸せになろうぜ」)の湯は、析出物が湯船や床に紋様を描きオブジェのようになっています。青白くみえる薄にごりの湯。やや熱めできりっとしたスッキリ系。温泉分析書を見比べると、どちらも、泉質は同じくナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉なのですが、見た目も感触も全然違って楽しい。自然の温泉は神秘的と感激してしまいました。
露天風呂の2つの湯船も別々の源泉かけ流しです。右はぬるめで、左は熱め。泉質は同様ですが、にごり湯にはならず、内湯よりもさっぱりとした感触です。
最北の酒蔵の地酒で夕食、翌朝はイヌ・シカ並んでお見送り
たくさん温泉に入って、おなかがペコペコです。ダイニングは、広々していてソーシャルディスタンスが保たれています。ガラスの照明が可愛い。
北海道三点セットのお刺し身。ぷりっとうまみのあるホタテ、とろんと甘いエビ、サーモンが並んでいます。
これはもう、日本酒です。北海道の地酒、日本最北の造り酒屋として知られる「国稀」(くにまれ)酒造の「国稀」特別純米酒は、フルーティーな香りで軽やかな甘み。スイスイ飲んでしまいそうで困ります。
鍋やそばなど、ほっと温まるお料理。中央は、ピリ辛の麻婆豆腐です。これが最後のごはんの伴となりました。
宿の駐車場では、ワンちゃんと野生のシカが並んでお見送りとは、なんと、びっくり。自然豊かな北海道らしい出来事です。
そばどころ・新得で名物メニューを味わう
隣町の新得(しんとく)はそばが名産です。駅の周りに数軒のそば処がありますが、実は楽しみにしていた人気メニューを目指して、「そば処みなとや」へ。
どどんと、登場したのは「アベック丼」。アベックとは、なにやら懐かしい響きですが、天丼、豚丼、冷かし、冷やぬき、冷山菜、冷納豆から2品選んで両方味わえるスペシャルメニューなのです。どれにしようかな。とよく見ると、「冷かし」とはなんでしょうか。お店の方に聞いてみると「冷やしかしわ」のことでした。名前の響きに誘われて、冷かしと天丼をアベックで。そばはやや太めで味わいも香りもコシもしっかりしていておいしい。揚げたて熱々の天ぷらは、エビ2尾、かき揚げ、大葉、ししとう、きすと盛りだくさん、衣がサクサクでパンチのあるタレと絡んで超おいしい。楽しい旅ごはんでした。
然別峡 かんの温泉
https://www.kanno-onsen.com/
そば処 みなとや
https://www.shintoku-town.net/food/soba/01_03minatoya.html
■「楽しいひとり温泉」ポイント
1.自然湧出の温泉に感激
2.秘湯でもすてきなロッジ風
3.異なる源泉をとことん湯めぐり
BOOK
PROFILE
からの記事と詳細 ( 秘境、ぷくぷく湧き上がる地の恵み 北海道「然別峡 かんの温泉」 - 朝日新聞デジタル )
https://ift.tt/3vMUYdp
No comments:
Post a Comment