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Friday, July 16, 2021

定期代が上がる!? 鉄道の“変動運賃制度”が検討開始、利用者負担は - ITmedia

layaknaik.blogspot.com

 鉄道事業者は大都市の通勤通学利用者に対して、定期券による大幅割引を実施している。「毎日乗ってくれる人は割り引きますよ。だから1カ月、3カ月、6カ月分の運賃を前払いしてくださいね」。

 つまり「お得意様割引」である。週に1回のお客様よりも、週に5回のお客様を大切にしたい。週に1度の乗車で往復500円。週に5回なら2500円。それが4週間なら1万円。それだけ乗ってくれるお得意様なら、2割、いや4割引きで提供しましょう。

 この、明治時代から続いていた考え方が、実は間違っていたのではないか。

 たくさん乗ってくれるお客様に割引サービスを提供します。これはボリュームディスカウントである。缶ビール1本売るより、6本売ったほうが1本当たりの値段は安い。ソーセージもたいていのスーパーマーケットで2袋単位だ。

 まとめて売れば、1回1個ずつ売るよりも販売管理コストが下がるからだ。レジ精算はまとめて行えるし、輸送などの単位もまとまって手間が減る。しかし鉄道は違う。お得意様が増えるほど、莫大な設備投資が必要になるからだ。

鉄道で「変動運賃制度」の検討が開始された。そもそも、通勤通学定期券によるボリュームディスカウントは必要だったのか

鉄道事業にボリュームディスカウントは不要だった?

 ボリュームディスカウント、つまり安い運賃で利益を出すには、常に乗車率200%のギュウギュウ詰めで走らせたい。列車を運行するコストは一定だから、1本の列車にたくさん乗客を乗せた方が利益は高い。駅には次の列車に乗る客がたくさん待っていたほうがいい。実際、戦後の高度成長期はこの状態だった。しかし鉄道側の設備が追いつかず、利用者の罵声が飛び交い暴動も起きた。

 そこで国は混雑緩和を指導し「乗車率を下げろ」と要請した。そのために鉄道事業者は1つの列車の車両数を増やし、駅のプラットホームを長くし、列車の運行本数を増やし、留置線を拡張しなくてはいけない。しかも1列車当たりの乗客が減り売り上げは下がる。

 それでも鉄道事業者が混雑緩和を達成できた理由は、費用と収益のバランスをギリギリで釣り合わせられ、その状態でも利益が確保できたからだ。

 1列車あたりの乗客数が減っても、運行頻度を高めれば通勤輸送数は維持できる。通勤輸送数の維持は鉄道だけではなく、沿線で展開する不動産、小売、レジャービジネスの顧客確保にもつながるからだ。

 ところが、新型コロナウイルスの影響で通勤通学客が大幅に減った。お得意様を失った鉄道事業者から「もうお得意様割引は止めたい」「むしろ値上げしたい」という声が上がった。

 お得意様がたくさん乗ってくれるから設備投資を続けてきたけれど、肝心のお得意様がいなくなれば、これらの設備の維持費がかさむ。さらなる拡張のために使った建設費も回収できない。収支のバランスが崩れた。

消費者物価指数とJR東日本の11キロ区分の定期運賃を比較した。国鉄時代は再三の値上げでひんしゅくを買ったけれども、JR東日本になってからは当時の国鉄時代の運賃を継続し、消費税転嫁以外の値上げをしていない(総務省統計局「消費者物価指数(CPI)時系列データ」、時刻表運賃などを元に筆者作成)

都市の鉄道も救済したい。ただし予算はない

 いままで国は、過疎によって乗客が減った地方鉄道に対して支援を行ってきた。鉄道にこだわらず、バスやデマンドタクシーを使った持続的な交通体系維持も示唆した。ところが、面倒を見なくても自活できる大都市の鉄道まで経営危機に陥った。大量輸送手段の鉄道は都市の要であり、道路交通では代替できない。

 支援策がなければ鉄道が死ぬ。都市が死ぬ。国が滅びる。そこで浮上した政策が「変動運賃を認める」というものだ。鉄道運賃の規制を緩和し、鉄道事業者の値上げを認める。明治以来の鉄道施策を転換する覚悟を決めた。

 なぜなら、通勤客の減少は国の感染対策の結果だから。これは“官製不況”だ。国が責任を取らなくてはいけない。しかし、大規模な都市鉄道に対して、経営安定のための補助金は出せない。そんな予算はない。だから、メンツを捨てて制度をいじり、鉄道事業者の自助を促そうと考えた。JR東日本もJR西日本も、値上げさせてほしいと言っている。

 そこで国土交通省は「大都市鉄道等の混雑緩和策の検討(ダイナミックプライシング等)」を盛り込んだ「第2次交通政策基本計画」を策定し、2021年5月28日に閣議決定された。2025年度までに議論していくことになる。

 ダイナミックプライシングが実施されると、通勤時間帯の運賃は定期券だけではなく、単発のIC乗車券決済でも値上げになる。その代わりに、ピーク時間帯の運賃を下げるよう鉄道事業者に求めていくだろう。

 いままで朝7時台、8時台に集中した通勤客が、6時台や9時台、10時台まで分散すれば、鉄道事業者は列車の編成を短くできて、運行本数も減らせる。つまりコストを下げられる。鉄道事業者の業績回復のためには、25年までの結論まで待てない。早急に決定してほしい。

鉄道は地域独占企業として規制されてきた

 鉄道の運賃は、鉄道事業者が任意で決められない。「上限運賃制度」という規制があり、国の認可を受ける必要がある。「距離に応じて、最大でこれだけの運賃を定めたい」と国に届け出て認可を受ける制度だ。なぜ鉄道会社にこんなしばりがあるかといえば、鉄道事業は公共事業かつ地域独占企業だから。

 鉄道建設は莫大な資金が必要だ。出資者からお金を集めても、実際に開業できなければ詐欺だ。土地を確保して放り出せば地域が荒廃する。つまり、規模が大きいだけに事業の失敗は許されない。だからこそ発起人と事業計画を厳正に審査して「免許」を与えた。鉄道免許は、その地域の鉄道事業を独占的に認める。これは酒や塩の専売制度にも似た施策だ。

 事業を認めたからには健全に運営されなくてはいけない。競合他社の平行建設を認めると、過当な運賃競争が起きて、安全への投資を怠る恐れもある。だから無用の競争は避けるべきだ。したがって、国策による鉄道建設が決まっている地域には免許が与えられなかった。

 鉄道免許制度は00年に鉄道事業法が改正されるまで続いた。法改正以降の鉄道事業は免許制から許可制に緩和され、届け出れば路線の建設と廃止が可能になった。もっとも、すでに大都市の鉄道網は整い、競争目的の新規参入の余地はなかった。この改正はむしろ、赤字路線の廃止手続きを緩和するためといえた。

 この改正で同時に作られた制度が「上限運賃制度」だ。それまで鉄道の運賃については、変更の都度、国の審査、認可が必要だった。鉄道は独占企業だったから、放置すれば独善的に値上げする。これを防ぐために監督されていた。それを緩和し、鉄道事業者の裁量を増やした。

現在も変動運賃は可能

 上限認可制度では、あらかじめ国から上限運賃の認可を受けていれば、その範囲内で運賃を決めて届け出れば良いことになった。例えば上限運賃を500円と設定した区間であれば、当初は300円で営業してもいいし、上限の500円までは届出だけで値上げできる。

 しかし、鉄道事業者は上限運賃を自由に決められない。国はJR旅客会社、大手民鉄、地下鉄、それぞれの業態で複数の事業者の実態を元に「基準コスト」を算定している。それに加えて、「適切な利益の範囲内」の上乗せしか認められない。

 一方、入場料金、特急料金などの「料金」については、鉄道事業者が任意の上限を届け出て許可を得ればいい。ただし、運賃、料金とも、国土交通大臣が不適切と判断した場合は、是正処置が取られる。

 変動運賃制度(ダイナミックプライシング)については、航空運賃やホテルの料金が引き合いに出される。混雑日には運賃や宿泊料金が高くなり、閑散期には安くなる。

 鉄道にはその制度がない、という報道もあったけれども、それは正確ではない。JRの特急料金も閑散期は安く、繁忙期は高い。スマートEXやEチケットなど、運賃込みで時間帯別料金を設定する事例もある。

 ただしそれは、最も高い運賃と料金で上限を設定し、認可を受けた範囲内で価格を操作している。航空運賃に上限はないけれど、過剰であれば国土交通大臣から是正命令を出せる。

 鉄道もダイナミックプライシングはできる。ただし、上限運賃が決まっており、多くの事業者で運賃は上限いっぱいの運賃や料金を設定しているから、実質的に割引しか施策がない。値上げの余地があるとすれば定期券の割引率を下げる程度で、これも上限運賃を超えられない。

上限規制緩和こそ、真のダイナミックプライシング

 「第2次交通政策基本計画」に盛り込まれた「ダイナミックプライシング」とは、この上限規制の緩和、もしくは撤廃を議論するという意味だ。

 現在の上限運賃制度は「基準コスト+適正利益」で算出している。基準コストの算定方法を変えるか、適正利益を増やすなどで、上限運賃引き上げとして制度を残すか、いっそ上限運賃を撤廃し、航空運賃同様に鉄道運賃も完全に許可制にするか、という議論が始まるだろう。

 また、鉄道事業者がダイナミックプライシングをどのように取り入れていくかも興味深い。変動運賃制になれば、自動改札を通過した時刻で運賃が変わる。混雑時間帯定期券、閑散時間帯定期券の価格体系になるだろう。一般運賃も高速道路のETCとチケットのように、IC乗車券には変動運賃で閑散時間帯を安く設定するけれども、紙の切符は全ての時間帯で割引なしという施策もできる。

 現在も日中用だけ多く発行される回数券がある。ただし回数券そのものを廃止する動きがある。回数券の廃止はダイナミックプライシングとは関係なく、実質的な値上げ施策といえそうだ。いや、すでに「ボリュームディスカウントには意味がない」と気付いてしまったかもしれない。

 次の課題は会社側、通勤手当を支給する側の施策だ。定期券が「ピーク用」「オフピーク用」で値段が変わった時に、従業員にどちらを支給するか。完全にシフト交代制でなければ「ピーク出勤社員」「オフピーク出勤社員」の区別は難しいだろう。

 テレワークが普及し、定期代支給を辞めた企業もあるという。もしかしたら、鉄道側では廃止される「上限規制」が、企業側では「上限通勤手当」として採用されるかもしれない。「通勤手当に上限を設定し、従業員はその範囲内で出勤せよ、超過分は申請または自己負担」というように。

 通勤定期が高くなったら、ますますテレワークが普及するかもしれない。変動運賃制度の導入は通勤のあり方も変えてしまいそうだ。

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