
「上がる」「昇る」といった験を担いだ言葉を連発するざる屋が、客の相場師を喜ばせてご祝儀をせしめる。上方落語の「米揚げ笊(いかき)」だ。「いかき」とは、ざるのこと。東京では「ざるや」の題で演じられる▲相場師でなくても、辛気くさい言葉より、景気のいい話を聞きたいのが人情というものだろう。験のいい言葉にこだわる旦那が出てくる「正月丁稚(でっち)」という噺(はなし)もある▲寄席で縁起を担ぐものといえば、太(だい)神楽(かぐら)の曲芸がある。江戸時代初期に神事として生まれ、疫病を払うとされる獅子舞に次第に曲芸が加わった。バチやまりの芸、和傘の上で升を回し、ますますの繁盛を願う傘回しなどの妙技が客席を沸かせる▲落語の間にはさむ色物として欠かせない存在だが、担い手が減少しているという。修業には時間がかかる。日本芸術文化振興会が11年ぶりに研修生を募集中だ▲あごで支えた台茶碗(ぢゃわん)の上に、板や茶碗、化粧房を積み重ねていく「五階茶碗」も代表的な芸だ。見守る方もハラハラする。これにも「何事もうまく積み重なりますように」との意味があると、太神楽曲芸協会理事の鏡味(かがみ)仙志郎さんは話す▲コロナ禍で萎縮した世の中だが、ビジネス客の入国制限緩和など社会・経済活動の再開へ動き出した。「ますます繁盛」の響きは耳に心地いい。一方で「第6波」への警戒も怠ってはならない。「五階茶碗」は積み重ねていくよりも、下ろしていく時のほうが実は難しいという。何事もバランスを失えば、目も当てられない。
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