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Friday, October 14, 2022

“音楽に魅せられた男”立石俊樹の幕が上がる | ミュージカル俳優の現在地 Vol. 1 - ステージナタリー

layaknaik.blogspot.com

ミュージカルの作り手となるアーティストやクリエイターたちはこれまで、どのような転機を迎えてきたのか。このコラムでは、その秘められた素顔をのぞくべく、彼らの軌跡を舞台になぞらえて幕ごとに紹介する。第1回は消防士という経歴を持ちながら、自身が求める音楽の魅力を追求するために方向転換、豊かな歌声と持ち前の舞台度胸で2.5次元舞台からグランドミュージカルまで幅広く活躍の場を手にした立石俊樹が登場する。

悩みながらも道を切り拓き、現在、立石がたどり着いたのは、自身も憧れていたというミュージカル「エリザベート」の若手俳優登竜門として知られるルドルフ皇太子役。「欲張りなのかもしれない」と語る柔らかな笑顔の奥に宿された、立石の情熱をひもとく。

取材・/ 大滝知里

第1幕、休みの日はカラオケ三昧の消防士時代

──立石さんの経歴で非常に特徴的なのは、消防士からアーティスト活動への転身です。音楽やミュージカルへの興味は、いつ頃からお持ちだったんですか?

小学生になるちょっと前くらいから、音楽が本当に好きだったんです。ピアノとか特に何かを習っていたわけではないんですが、音楽の授業で歌ったり、学校の文化祭、地元で開かれるカラオケ大会などがあれば、絶対に歌っていました(笑)。それは、人前に出ることが好きだからという理由ではなくて、本当に歌が好きだったから。

──最初は歌手を目指されていたとか。

そうですね。僕は歌を聴くのも好きで、幼少期は両親が運転する車の中でGLAYさんとかスピッツさんの曲を聞いて育ちました。一番憧れたのは、EXILEのATSUSHIさんだったかなあ。でも、出身地の秋田で周りに歌手を目指す人がいなかったから、「どうやって目指せば良いんだろう?」という感じで。そういう夢がありながらも、高校卒業と同時に消防庁に就職したんです。でも、なかなか歌への憧れが捨てきれなくて。消防士時代は、だいたい24時間勤務したら2日間休みがあるので、休みのどちらか1日はカラオケに行って歌っていましたね。たぶん、歌っている自分の声も好きだったんだと思います。あと、歌っていると、日常生活では感じることのできない瞬間があったりして。言葉で話す、伝えるだけでは足りない何か、歌でしか満たされない部分が僕にはあったんだと思います。まあ、音楽に魅せられた男ですね。

──カッコいい(笑)。そんな立石さんが歌手になるために、どうやって奮起したのでしょうか?

僕、自分に自信のないタイプだったんです。だから、自己啓発本をたくさん読んで、がんばって自信を付けようとしました。その頃、消防士の同期の親友に進路に対する悩みを打ち明けていたんですが、今でも覚えているのが、「そんなに完璧な人になりたいの?」と言われたこと。「そのままで良いよ」という親友のメッセージがすごく伝わって、とても救われました。

第2幕、できない自分が嫌でズル休み。そして俳優の道へ

──その後、やはり歌への思いを捨てきれない立石さんは、消防士を辞めて歌手の世界へ歩みを進めます。ダンス&ボーカルユニット・IVVYでTOSHIKIとしてアーティストデビュー後、グループ活動と俳優活動を両立させていた時期がありました。歌手から俳優へと興味が移ったきっかけは何でしょうか?

消防士を辞めてから入った養成所(事務所)のレッスンで、歌以外にもいろいろと新しいことに挑戦したんですが、そこで“できない自分”がものすごく嫌になって、ズル休みをしていた時期があったんです(笑)。その時間を使って、名作と呼ばれる映画を借りてきては、家で観ていました。自分は俳優業をやらないだろうと思っていたんですが、そのときにお芝居がすごく素敵に見えて、「俳優って良いな」と思うようになったんです。当時、相変わらず歌やダンスのレッスンはうまくいかなかったし、お芝居も心から楽しいと思ってやれてはいなかったんですが、「もっとできたら」と視野が広がっていきました。その頃かな、「ミュージカル『テニスの王子様』」(以下テニミュ)を観て、「僕、こういう作品に出たいです」と事務所のマネージャーさんに申し出ました。それから半年後くらいにオーディションがあり、運良く受かって。いろいろなオーディションに落ちたり、たまに受かったりする中で、こうやって自分から求めた舞台の作品に出演する機会をいただいたのは初めてだったので、とてもうれしかったですね。

──それが2017年の「ミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン」幸村精市役でした。お芝居に苦手意識のあった立石さんが、その後、さまざまな舞台で活躍する中で昨年、俳優業に絞る決断をされました。その理由は何だったんですか?

ありがたいことに、コンスタントに仕事のオファーをいただくようになったときに、アーティスト活動と俳優業のどちらもきちんと消化することが、自分にはどうしてもできづらくなっていたんです。「仕事と仕事の合間に一息ついて、頭を切り替えられていたら、もっと良い表現ができたかもしれない」と思ってしまって。もちろんいろいろな考え方があるので、二足のわらじで活動できる人もいれば、何か1つにすることで集中できる人もいる。僕は、仕事という“塊”がありすぎることで、納得のいかないまま届けてしまうことになるのが嫌だったんですよね。自分の中で「もっと良いものを届けたい」という気持ちがあったので、グループを卒業するまではどうにか両立できないかとたくさん悩み、試行錯誤しながら行動したうえで、自分のキャパシティや適合性を考えて、決断しました。人生の時間が限られている中で、自分が届けたいものをベストな形で届けるべきだと思いますし。

──俳優業1本でやっていくと決めたときに、誰かを目標に見定めていましたか?

海外の方だと、ラミン・カリムルーさん。朝の生放送の番組に出ていらして、朝イチですごい声量で歌っていた姿にびっくりしたんですよね(笑)。感動したし、世界の広さを感じて、「目指すべきはそこなのかな」って思いました。あとは井上芳雄さん、中川晃教さん、山崎育三郎さんもそうです。ほかにもたくさんいます。

IVVYのライブの様子。

IVVYのライブの様子。

「MANKAI STAGE『A3!』ACT2! ~SPRING 2022~」より。(c)Liber Entertainment Inc. All Rights Reserved. (c)MANKAI STAGE『A3!』製作委員会

「MANKAI STAGE『A3!』ACT2! ~SPRING 2022~」より。(c)Liber Entertainment Inc. All Rights Reserved. (c)MANKAI STAGE『A3!』製作委員会

──テニミュの幸村精市役、「MANKAI STAGE『A3!』」(以下エーステ)の茅ヶ崎至役、「ミュージカル『黒執事』~寄宿学校の秘密~」でのセバスチャン・ミカエリス役など、舞台では数々の作品で観客に愛される役を担ってきました。これまで演じてきた役でご自身の考え方をガラリと変えられたものはありますか?

毎回そうです。自分にないものを持っているキャラクターや、自分自身を底上げしないと表現できない役ばかりで、新しい役に出会うたびに喜びもありますが、苦しさもあります。幸村のような部長としての存在感やはかないながらもラスボス感あふれるオーラ、エーステの至のような社会人としてのスマートで大人な一面やゲームに人生のすべてを捧げるゲーマーとしての感覚は、僕にはないもの。「黒執事」では執事らしい立ち居振る舞いや言葉遣いが求められ、さらに悪魔という特殊な設定もあって。それって舞台の醍醐味で面白いところでもあるんですが、やっぱり難しいと思います。また、どっしりとした強めの役が続いたかと思えば、音楽劇「キセキ ーあの日のソビトー」というGReeeeNさんを描いた作品では、実在するHIDEさんを演じたりして。役に引っ張られて、日常生活や物事に対する考え方に影響があったと感じることも多々ありました。「目つきが怖い」と言われることもあったし、逆に「キセキ」ではいつもよりタレ目になっていましたし(笑)。

──オンオフでスイッチが切り替わるタイプではないんですね。憑依型というか。

そうだと思います。瞬間瞬間で器用に変わることができないので、日常から役を落とし込んでいかないとやっていけないんじゃないかな。時間がかかる、じっくりコトコト煮詰めるタイプ(笑)。僕にとって劇中のシーンについて解決する日はなくて、「まだ何かあるんじゃないか」と可能性を考えてしまうんです。1つに定めることに成長はないと思うし、考え続けることは来てくれるお客さんのためにも、自分にとっても大事なことだと思っています。上には上がいる、もっと上に行かなきゃ!と。

第3幕、そしてグランドミュージカルの扉が開く

──初めてのグランドミュージカル出演となったのが、小池修一郎さん潤色・演出のミュージカル「ロミオ&ジュリエット」(以下ロミジュリ)ティボルト役でした。実は俳優を目指したときから憧れの作品だったとか?

初めてミュージカルに出演することになったときに、YouTubeで「ミュージカル」を検索したら、途切れ途切れでロミジュリの映像が上がっていたんです。当時は観た瞬間に漠然と「ロマンチックな題材が好きだなあ」と思って。でも実際に演じると、ティボルトもやっぱり大変でした。彼のやさぐれた感じや怒りを表現するだけでなく、身体を大きく見せようとトレーニングもして。初めの頃は稽古後、小池さんに「ティボルト、このあと残って」と言われ、細かくご指導いただきましたね。お芝居部分での僕の足りなさを見抜かれていて(笑)。「ティボルトがどうして赤い服を選んで着ているのか、彼は赤い服で自分をどう見せたいのか」ということから、物語の解釈の仕方、台本の読み方、想像力の膨らませ方を、僕でもわかるように伝えてくれました。お芝居の基礎中の基礎でもあるからお恥ずかしいのですが、その教えは今も思い出しています。

ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」より。(c)岡本隆史

ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」より。(c)岡本隆史

──歴代の“ティボルト俳優”がいる中でプレッシャーもあったかと思います。

自分が演じるなら、ティボルトに対する新しい捉え方ができないかなという気持ちがすごくありました。今までを“なぞる”のではなく、自分の感性で表現できるところを探したかった。ティボルトをただ怒っている人物だと単調に受け取るのではなく、どんな人間なのか、深いところを引き出せたらと思って、日本の過去の公演だけじゃなく、海外で上演されたロミジュリの映像を観て、自分の中で正解を見つけていく作業をしていましたね。

──10月からはミュージカル「エリザベート」のオーストリア皇太子・ルドルフ役で再び、小池さん演出・訳詞の作品に挑戦されます。

「エリザベート」はミュージカルを初めて知った頃から絶対に出演したい作品の1つでした。ルドルフは、オーストリア皇后であるエリザベートに対して、一番悲しい衝撃を与えてしまう人物です。彼の行動によって、エリザベートが自身の行いを顧みて、変化していく。皇太子という生まれながらに決められた立場がもたらす重圧には、僕の理解を超えたつらさがあると思います。結果的に非業の死を遂げてしまうまでの、ルドルフの華やかさと内面とのギャップがこの役の魅力だと思いますし、僕自身も観客としてそこに惹かれています。

──ちなみに、ルドルフ役への出演が決まったときの立石さんの心境はどのようなものでしたか?

いやもう、ニヤニヤですね(笑)。しめしめ、と。意外と野心家だったりするのかな? 自分って。

──お話を聞いていると、そこはあまり意外ではないですね。柔らかい物腰の奥に強い意志と向上心が……。

本当ですか?(笑) でも、そうなんですよね。「この作品に出たい」とあまり人に言わないし、目標を隠すタイプではあるんですけど、めちゃくちゃ欲張り。だから今はニヤニヤ、しめしめ、しています。

───素晴らしいことだと思います。そんな立石さんが演じるルドルフ役の芯はどんなところになりますか?

ルドルフって、繊細で弱々しいイメージがありますが、彼を演じるにあたって、“それだけじゃない部分”を探していきたいです。ルドルフの行動力や絶望感、選択をどれだけ説得力を持って丁寧に表現できるかというところが重要だと思っています。

ミュージカル「エリザベート」より。

ミュージカル「エリザベート」より。

──来年にはミュージカル「太平洋序曲」でソンドハイム作品に挑まれるなど、話題作への出演が続きます。今後、ミュージカル俳優として何を指針に突き進まれていこうと考えますか?

自分にしかない感性っていうのをやっぱり信じていますし、子供の頃から持っている感性は大人になっても持ち続けていたいという思いがあります。それが自分にとっては大切な部分で、その感覚の先にある理想の表現を追い求めていきたい。それは、心の奥底に響くような表現と言ったら良いのかな……。僕、ミュージカル「モーツァルト!」の持つメッセージ性が大好きなんです。あの作品を観て、「ミュージカルだからこそできる表現があるんだ」とすごく感じました。今までは歌に魅力を感じていたけど、今は、歌もあればお芝居もあって、ダンスもあるミュージカルが一番。良いものが合わさったらもっと良いものできる!という世界に携われていることに感謝して、自分の思い描く姿で、どんな作品にも自信満々で居られるようなミュージカル俳優になりたいなと思います。

プロフィール

1993年、秋田県生まれ。2017年に「ミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン」幸村精市役で俳優デビュー。「MANKAI STAGE『A3!』」茅ヶ崎至役でも知られ、テレビドラマ「社内マリッジハニー」「テレビ演劇 サクセス荘3」「FLAIR BARTENDER'Z」「壁サー同人作家の猫屋敷くんは承認欲求をこじらせている」などに出演。「ミュージカル『黒執事』~寄宿学校の秘密~」ではセバスチャン・ミカエリス役で主演を務めた。2023年1月までミュージカル「エリザベート」に出演中。3月にミュージカル「太平洋序曲」が控える。

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