Wi-Fiルーターのアンテナの向きは実は非常に重要だ。アンテナの向きを変えるだけで、速度や安定性が向上することもある。では、外付けタイプのアンテナを採用するWi-Fiルーターを利用しているとして、どの方向にアンテナを向けるのが正解なのだろうか? ここでは戸建てとマンションの2種類の住宅に対して、アンテナの向きの違いでどれくらい速度が変わるのかを実験してみた。
アンテナは内蔵タイプと外付けタイプの2種類
Wi-Fiルーターのアンテナは、大きく分けて2種類ある。
1つは本体に内蔵されているタイプだ。国内メーカーのWi-Fiルーターの多くがこのタイプで、見た目がすっきりしており、コンパクトなのが特徴となる。
内部の基板にアンテナが直付けされているか、ケーブルで接続されたアンテナ基板が筐体内部に格納されており、上下前後左右、どの方向にも電波が広がるように調整されている。筐体サイズや場所、ノイズ対策など設計上の制約があるため、技術力が問われる方式で、各メーカーが独自の内蔵アンテナ技術でしのぎを削っている。
内蔵タイプは、全方向に電波が広がりやすいので、なるべく家の中心に設置するのが基本となる。
もう1つは外付けアンテナを採用しているタイプで、主に海外メーカーが採用している方式と言える。Wi-Fiルーター本体の基板からケーブルを使ってアンテナ基板を筐体外側へと取り出し、可動部品を使って向きを調整可能にしており、アンテナの向きを自由に変えることができる。
外付けタイプは、基本的にアンテナの向きに対して直交するように電波が広がりやすくなっている。
どちらが有利かは一概には判断できない。内蔵タイプは日本企業ならではの緻密な技術力が性能に寄与しているし、外付けは純粋にアンテナの特性だけを考えた設計ができるだけでなく、利用シーンに応じてアンテナの向きを調整できるメリットがある。
外付けアンテナ調整の基本
前述したように、外付けアンテナを採用した製品の場合、アンテナの向きによって電波の特性が変化する。このため、アンテナを調整する際は、以下の基本を抑えておくことが大切だ。
- アンテナに対して直交する方向に合わせて向きを合わせる
- アンテナを扇型に広げて適度な距離を確保する
つまり、アンテナが立っていれば水平方向、アンテナが倒れていれば垂直方向に電波が広がりやすいことになる。
これを踏まえると、たとえば、マンションなどのように横方向の広がりがある空間ではアンテナを立てて利用し、3階建ての戸建てなどではアンテナを倒して垂直方向に電波が広がるように調整するといい。
一方、扇型に広げるのは、端末をさまざまな向きで利用する場合を想定した調整となるが、扇型にすることでアンテナが斜めになり、上下方向にも電波が広がるようになる。また、MIMOの到達経路を多様化する効果もある。
なお、アンテナの本数や配置は、製品によって異なる。基本的にはMIMOのストリーム数と同じになるが、2.4GHzと5GHzで分けられている場合もあれば、同じアンテナを使うケースもあったり、2.4GHzは内蔵されていたりするなど、いろいろなケースがあり、しかもどのアンテナが2.4GHz用で、どれが5GHz用なのかも見た目で判断するのは困難となる。
このため、複数本のアンテナを、それぞれバラバラの方向に向けると、特定の周波数だけ異なる方向になったり、MIMOの効果や特定方向に電波の向きを調整するビームフォーミングの効果が得られにくくなったりするケースもある。
あえて方向を変える調整方法もあるが、この場合、技適の検証結果などを調べて、アンテナの仕様を理解していないと組み合わせが難しい。通常は、すべて同じ方向に合わせるのが無難だ。
アンテナの向きによる速度の違いを検証する
それでは、実際にアンテナの向きの違いが、どれくらい速度に影響するのかを検証してみよう。
今回、用意したのはTP-Linkの「Archer AX50」だ。Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax)対応で、5GHz帯が最大2,402Mbps(2ストリーム160MHz幅時)、2.4GHz帯が最大574Mbps(2ストリーム40MHz幅時)に対応した製品となる。
外付けの4本のアンテナを搭載しており、外側の2本が2.4GHz用、内側の2本が5GHz用となっている(技適資料参照)。Wi-FiルーターおよびPCの位置や向きを固定した状態で、アンテナの向きだけを以下の組み合わせで変化させながら、3階建ての戸建て住宅とマンションの2カ所において、iPerfでスループットを計測してみた。
木造3階建て住宅で検証
まずは、木造3階建て住宅の結果を見ていこう。この検証では、1階にWi-Fiルーターを設置し、もっとも遠い3階の窓際で速度を計測している。
このケースで、もっとも結果が良好なのは、テスト3のすべて平行に倒した状態だ。3階の上方向に電波を飛ばしたいため、アンテナを倒した方が電波状態も良好なうえ、実際の転送速度も速い。
本製品のアンテナは、可動範囲が限られているため、倒した状態で扇型(テスト4)にするとアンテナ内部の基板が横向きになってしまう。それが上りの速度に若干影響したと推測できる。
一方、立てた状態では、すべて平行(テスト1)よりも、扇型(テスト2)にすることで、アンテナが斜めになり、上下方向にも電波が届きやすくなり下りの速度が向上した。
結果が悪かったのは、テスト5とテスト6の左右で異なる方向にしたときだ。このように同じ周波数帯のアンテナの方向が異なる場合、空間多重化のMIMOの効率が悪くなることが原因だろう。
とは言え、どの結果も、実効速度で100Mbpsを越えているので、50Mbps前後の差が気になることはない。Wi-Fi 6はそもそも性能が高いので、一般的な木造住宅であれば、アンテナの向きにあまり神経質になる必要はなさそうだ。
マンションで検証
続いて、マンションの結果を見ていこう。こちらでは、回線の引き込み口がある部屋にWi-Fiルーターを設置し、壁と廊下を挟んだリビングで速度を計測した。
マンションの場合、水平方向に電波が広がるのが理想なので、やはりアンテナは立てた状態の方が結果は良好だ。電波状態は平行に立てた状態が62%と良好だが、実行速度は扇型に開いたときの方が良好となる。このため、扇型に立てた状態で使うことを推奨したい。
一方、アンテナを倒したケースでは、上りの落ち込みが大きい。最近では、Web会議やデータ同期などの用途で上りも重要になってきているので、アンテナを立てた状態で使うことを推奨したい。
とは言え、最も低い値でも180Mbps前後、左右で異なる方向にしたときの速度でも200Mbps以上は確保できている。正直なところ、マンションでもアンテナの向きにそこまで神経質になる必要はない印象だ。
まとめ - アンテナの向きを見直してみよう
以上、Wi-Fiのアンテナの基本と、外付けアンテナの向きの違いによる速度を検証した。住宅環境に対するアンテナの向きがあっていないと、Wi-Fiルーターの実力を十分に発揮できないことがよく分かる結果となった。
基本的には、電波を届けたい場所に向けてアンテナが直交するように向きを調整し、さらに扇型にしておくと電波が届きやすい。外付けアンテナの機種を利用している場合は、この機会にアンテナを調整してみるといいだろう。
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