カメラは、14年から始まった東部での紛争により暮らしを奪われた人々の言葉を追う。写真家でもあるムラベツ監督が、それぞれの表情をフィルムカメラで撮影し、モノクロのポートレートに焼き付けていく。
ある高齢の女性は、手りゅう弾や地雷がすぐそばでさく裂し、目の前の人々が命を失った恐怖を語る。前線近くのウクライナ軍将校は、なぜこの紛争が始まったのかを問いかけ、「歴史から学ばなかったせい。残念ながら、21世紀になっても人間は戦争がしたいんです」と語る。
登場する市民とは現地で偶然に出会った。イデオロギーの境はなく、親ロシア派も含めて生の声を淡々と伝える。さまざまな立場の証言から紛争の本質、繰り返される戦闘の理由が浮かび上がってくる。ムラベツ監督は「みんな、争いの被害者。どちらの声も聞くべきだ」と力を込める。
映像には今回の侵攻を受けた東部ドネツク州のマリウポリをはじめ、ドンバス地域が登場する。ピアノを弾く少女やスクーターに乗ったユーモアたっぷりの女性がいた場所は、既に崩壊したという。侵攻から半年余り。「フェアではない不正義なことが起きている。実情を知り、学ぶことが大事」と強調する。
東西冷戦末期の1987年、ウクライナの西隣、現在のスロバキアで生まれたムラベツ監督。両親とも新聞記者で、自らも10年から旧ソ連諸国を中心に戦場カメラマンとして取材を続ける。今作の続編を準備中で、ウクライナに入って撮影を続ける。「次は子どもたちの姿を伝えたい」と決意する。「平和を。今の願いは、ただそれだけだ」
30日から福山市の福山駅前シネマモードでも上映する。
(2022年9月3日朝刊掲載)
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