一体いつになったら賃金はチャンと上がるんでしょうか?
政府が発表した今年10月の実質賃金は7カ月連続のマイナスとなりました。
身の回りの物価がドンドン上がる中で、暮らしは厳しくなる一方です。
こうした中、政府は「構造的な賃上げ」というキーワードで
賃上げ政策を進めようとしています。
一方、専門家からは企業の生産性が上がらない限り、
賃上げ政策には限界がある、という指摘もあります。
賃上げの仕組みはどうあるべきなんでしょうか?
そこで三つのポイント。
▼政府のいう「構造的な賃上げ」とは?
▼実は、生産性に連動しにくい日本の賃金
▼賃上げを後押しするための「目安」とは?
以上、3点について考えたいと思います。
【賃金のマイナス続く】
まず、政府が発表した今年10月の賃金データです。
名目賃金・賃金の額そのものは今年に入ってから、去年より増えています。
しかし、それよりも物価が大きく上がっているため、
その分を差し引いた実質賃金では7か月連続のマイナス。
しかも、マイナス幅が2.6%というのは、7年4カ月ぶりの落ち込みです。
給料で買えるものがどんどん減っているわけで、暮らしは厳しくなる一方です。
なぜ、賃金が伸びないのか?
問題が深刻なのは、賃金が上がらない状況は、ここ数年の問題ではない。
この30年間、日本ではほとんど賃金が伸びていません。
OECDのデータでは、
この30年間でアメリカの賃金は1.5倍に増え、韓国は倍に増えました。
しかし、日本はどうかというと、5%足らず。ほぼ横ばいです。
これほど長期の停滞は世界でも珍しい。
異常なことが起きていると言わざるを得ません。
【構造的賃上げとは?】
この状況を変えるには、企業の賃上げを待つだけでなく、
もっと基本的な環境整備に取り組む必要があるのではないか?
そうした考えで、政府が打ち出したのが「構造的な賃上げ」です。
岸田総理大臣は、臨時国会の所信表明演説で、
「正面から果断に『構造的な賃上げ』の実現を目指す」と決意を述べました。
構造的な賃上げとは何でしょうか?
所信表明によると、こうです。
企業が賃上げをする。それによって優秀な人が集まる。
すると企業の生産性が上がり、業績が上向いて、さらなる賃上げにつながる。
という賃上げの好循環が、今はうまく回らなくなっている。
そこにメスを入れ、サイクルを動かすのが
構造的な賃上げ、ということのようです。
具体的な取り組みとして政府が力を入れるのが、「労働移動の円滑化」
つまりもっと転職しやすい環境作りを目指すとしています。
そもそも日本では、転職がしにくい。
このため、賃金が安くても、ブラックな企業でも
がまんして勤め続けざるを得ない。結局、低賃金も続いてしまう。
これは多くの人が指摘するところです。
このため、具体的には
▼成長分野に転職するためのリスキリング(学び直し)の支援策として
「5年間で1兆円」を投じる
▼また、転職しやすくするために、企業の給与体系の見直しも促します。
現在、主流となっているのは、
長く勤めるほど賃金が上がる年功制の職能給ですが、
これを改めて、仕事に応じて賃金が決まる、
ジョブ型の職務給への移行を促します。
そして、そのためのガイドラインを来年6月までにまとめます。
こうした政府の対策は、このサイクルの図で言えば、
人材を囲っている厚い壁をこわして、外に行けるようにする。
そうすれば、企業は優秀な人材が流出するのを引き止めたり、
また、外から来てもらったりするために
賃上げを加速せざるを得ない、というわけです。
【生産性に連動しない賃金】
ではそれで十分なのかと言いますと、
実は、このサイクルには心配な点があります。
それが生産性から更なる賃上げへとつながる部分です。
生産性が上がれば賃金も上がる。
言い換えれば、賃金を上げるには、生産性をあげないといけない。
これは普通は常識と思われていますが、
この常識が、日本では通用しにくくなっているのではないか?
それが長年に渡る賃金停滞の理由ではないか?という指摘が
専門家から上がっています。
どういうことでしょうか?
たとえば、労働政策研究・研修機構の樋口美雄理事長は
今年2月、NHKの番組「視点論点」で、OECDのデータを用いて
独自に試算したグラフを示されました。
それがこれです。
まず、日本、アメリカ、EUの労働生産性が比較されています。
この場合の労働生産性は、労働者1人が
1年間でどれだけ成果を生み出したかを1995年からの変化で見ています。
日本の生産性は、アメリカと比べると明らかに低いですが、
EUとの比較では、それほど大きな差はありません。
次に、これに賃金の推移を合わせてみます。
アメリカもEUも、二つはほぼ重なります。
なるほど生産性と賃金は確かに強い関係があるようです。
では、日本はどうでしょうか?
まったく、重なりません。
生産性は、そこそこ上がっているのに、
賃金は横ばいのままで、全く反応していません。
これを見る限り、日本では生産性と賃金の関連性は低いと言わざるを得ません。
また、その後、内閣府がこれを裏付けるようなデータを出してきました。
(内閣府「世界経済の潮流」(2022年))
こちらは、各国の生産性と賃金が、どれだけ連動しているのか、
相関関係を数値化して比較したものです。
数字が1に近づくほど関係が深く、ゼロなら無関係。
アメリカは0.674なのに対して
日本は、一桁以上小さい0.049。ほぼゼロです。
OECD加盟国35か国中26位。
各国と比べて、生産性と賃金の関連性が、明らかに低くなっています。
ということは、これから様々な政策が効果を上げて、
たとえ生産性を上げることができても、
それで賃金がチャンと上がるかどうかは別問題ということになります。
【賃上げの目安とは?】
では、一体どうすればいいんでしょうか?
重要なのは、本来賃金というのは、企業の労使の交渉で決まる、ということです。
たとえばヨーロッパなどでは、
産業ごとに大きな組合が組織されて、
国や地域レベルで中央集権的に賃金が決まります。
それが傘下の労働者に広く適用されます。
結果、賃金は継続的に上がることになります。
しかし、日本の組合は個別の企業ごとに別々に組織されています。
低成長が続く中、個別の賃上げ交渉は厳しさを増しています。
しかも組合の組織率は今や17%。
つまり100人労働者がいたとして、組合に入っているのは17人だけ。
多くの企業では組合そのものがありません。
こうなると賃上げは、経営者の判断しだいということになります。
そこで、労働問題に詳しい
山田久・日本総合研究所副理事長は以前から一つの提案をしています。
中立的な第三者委員会を作って、産業別や、企業の規模に応じて
賃上げの目安を示してはどうか、という提案です。
すでにスヴェーデンなどで、似たようなことが行われています。
目安はあくまで目安で、強制力はありません。
しかしデータと客観的な分析によって、シッカリと裏付けられ、
その通りの賃上げができる企業が増えた場合、
そうでない企業も、何とか追いつこうと努力するのではないでしょうか?
いわば、日本風世間体圧力の活用です。
今や、企業が利益の一部をため込む内部留保は五百兆円を超えて、
十年連続で過去最高を更新しています。お金はあるわけです。
今度こそ、大幅な賃上げを促す具体的な仕組みを、
官民あげて議論すべきだと思います。
からの記事と詳細 ( 安いニッポン! 賃金はどうすればあがるのか? NHK解説委員室 - nhk.or.jp )
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