10日正午過ぎ、重機が青い海に石材を投入した。とうとう始まった。辺野古新基地建設の大浦湾側の工事だ。軟弱地盤、膨らむ建設費、何よりも沖縄の人々の反対。にもかかわらず政府は工事を強行した。
大浦湾のマヨネーズ状といわれる軟弱地盤に7万1千本のくいを打ち、約160ヘクタールの基地を造る。政府によれば移設完了まで12年、事業費は9300億円だ。費用はさらに膨らむだろう。政府は2014年段階で事業費を3500億円としていたが、2・6倍以上に修正した。今後も資材高騰の影響は必至だ。
しかし、これだけの時間と国税を使って米軍基地を造ることに、国民的議論が起こらないのはなぜだろうか。
大阪万博の会場建設費が当初の1250億円から2350億円と約1・9倍に膨らむと批判が高まっている。しかし辺野古は万博の約4倍だ。終了後は民間利用できる万博と違い、辺野古は国民の使途はない。
岸田文雄首相は、世界一危険な米軍普天間飛行場の固定化を避ける「唯一の選択肢」と述べた。しかし、辺野古完成後に普天間が返還される保障はない。昨年11月、在沖米軍幹部は記者団に「軍事だけで考えれば(辺野古より)普天間の方が良い」と発言した。滑走路が1800メートルしかない辺野古より2300メートルの普天間の方が米軍にとって使い勝手は良いという。
そもそも日米両政府が合意した普天間返還の条件は8項目あり、そのうち達成されたのは「岩国基地へのKC130空中給油機移駐」と、米軍が緊急時に使用する「空自新田原・築城基地の施設整備」の一部だけだ。
辺野古が完成しても「長い滑走路を持つ民間空港の使用」などが達成されなければ普天間は返還されない。17年に稲田朋美防衛相もそれを明言した。
巨費を海に投じ造る、沖縄の負担軽減とは真逆な巨大な基地。玉城デニー知事が「極めて乱暴で粗雑な対応」と評する、対話を拒否する政府からは「終わった政治案件」と判断していることが透けてみえる。
しかし沖縄の人々にとっては子々孫々まで命や環境、人権を脅かす「終わらない負担案件」だ。政府は聞く耳を持ち、辺野古新基地建設を止めて普天間返還の道筋を再構築すべきだ。県は国民的議論を喚起し、日米両政府と対話の道筋を探ってほしい。
辺野古は終わった政治案件ではない。
しま・ようこ 琉球新報社取締役統合編集局長。沖縄市出身。東京報道部長、政治部長、経済部長、編集局次長兼報道本部長、広告事業局次長などを経て22年6月に取締役編集局長。23年9月の組織改編に伴い現職。
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