営業終了は直営店など、フランチャイズ店舗は今後未定
“高級カプセルホテル”として一世を風靡し、気軽に泊まれると若者や女性、出張ビジネスパーソンまで幅広く人気があった宿泊施設「ファーストキャビン」が2020年4月24日、破産を申請した。新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛に伴う利用者減少の影響を受けたこともあり、大きなニュースとなって日本全国に衝撃を与えた。
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帝国データバンクによると、負債額は関連5社を合わせて約37億円。全国に20以上ある施設のうち、築地や京都嵐山など5施設の営業終了も同時発表された。
筆者は、ファーストキャビンをよく取材する一方、プライベートでも利用してきた。特に、女性にとってあらゆる点で満足度が高く、まわりの女性らからも好意的な声が多かった。直営ではないフランチャイズ店舗は、今回の営業終了の対象外とも聞き、今後の営業再開にわずかな期待を抱いている。
羽田空港内の施設は常に予約が取りづらい人気ぶりだった
ファーストキャビンの中でも、人気が高すぎて予約困難だった施設がいくつかある。その1つが「ファーストキャビン羽田ターミナル1」(休業中)だ。羽田空港のターミナル内にあり、立地で圧倒的に便利。特に、滞在時間が短めである深夜早朝発着便の利用者には好評で、数ヵ月前でないととても予約できない状況だった。
筆者は今年2月末にやっと予約でき利用した。JALの国内線到着口からわずか30秒で着き、ファーストクラスキャビンで1泊税込6800円。深夜や早朝に人の出入りがあってやや騒々しかったものの、耳栓を無料でもらえ、起きてすぐに上階のカフェへ朝食を食べに行くこともできた。コストパフォーマンスの高さを実感し、次に機会あればぜひまた泊まりたいと考えていた。
昨年10月、「ファーストキャビンTKP名古屋駅」(閉館)にも泊まった。当日予約だったが、ほぼ満室。鈴鹿でのF1観戦のために来日した外国人客がとても多かった。F1観戦は朝早く出発するため、“寝るだけの場所”としては確かに使い勝手が良い。海外でのドミトリー施設と比べると、清潔かつアメニティの充実度も高く、英語対応も随所で見られた。
◆次々開業から一気に倒産、この後の行方はいかに
カプセルホテルといえば以前は男性が主に宿泊する場所というイメージだったが、ファーストキャビンは女性の支持も絶大だった。さらに、訪日外国人にも人気が高かった。
なぜ倒産してしまったのか、最大の原因は、新型コロナウイルス、外国から日本への入国制限、日本在住者向けの外出自粛要請などが挙げられるが、それ以前から兆しはあった。ファーストキャビンは次々と店舗を増やしていき、取材する側としてもなかなか追いつかない状況で、先行投資のつけもかなりあったと推測する。
「全国の一等地にあるビルの空きスペースをぜひ有効活用したい」と、ファーストキャビン代表(当時)の来海忠男氏から取材で直接聞いたことがある。客室に窓がなくても宿泊施設として開業できるため、不動産業界にとって“救世主”だったに違いない。利用客、特に女性には、気軽に安心して泊まれるカプセルホテルがやっと登場した感があった。
そして、海外、特に家賃などが高い香港やシンガポール、さらに世界の主要空港のターミナル内に進出しても成功するのではと、取材時にファーストキャビンの担当者へ事あるごとに伝えていた。日本のコンビニエンスストアや「ユニクロ」「無印良品」などが海外へ続々進出して定着しつつあるのと同様、均一かつ上質なファーストキャビンのコンセプトが世界のモデルケースになる日を楽しみにしていた。
◆入口から男女別で清潔。閉塞感ないキャビンは快適
ファーストキャビンは、旅客機の客室(キャビン)をイメージした簡易宿泊施設で、利用する際は「ビジネスクラスキャビン」「ファーストクラスキャビン」などから選ぶことができた。
「ビジネスクラスキャビン」だとベッド1個分のスペース、「ファーストクラスキャビン」ではさらに広いスペースがある。なにより、いずれのキャビンも「天井が高い」のが最も良かった点。通常のカプセルホテルだとカプセル内で座るのが精いっぱいの高さだが、ファーストキャビンではベッドの上に立っても頭をぶつけない高さが確保されていた。天井が高いと開放的で閉塞感がない。
一般的なカプセルホテルに似た大きさの「プレミアムエコノミーキャビン」も、のちに一部施設で登場した。
そして、女性利用者にとって最大のメリットは「男女で滞在エリアが別々」であること。入口から異なるため、館内で男性と顔を合わせることがなく、気兼ねが要らない。キャビンも当然ながら女性専用のため、先に男性が使った後、という心配がないのも良いと、やや神経質な知人から聞いた。水回りなどがこまめに清掃され、清潔であったのも評価が高かった。利用者のニーズを見事に“熟知”していると感じた。
ビジネスホテルなどでレディース専用ルームは徐々に増えてはいるものの、設置数が少ない、予約がすぐ埋まるなど、毎回ピンポイント指定して泊まるのは厳しい。ファーストキャビンでは最初から男女別で、指定場所以外は館内すべて「禁煙」だ。Wi-Fiももちろん無料で利用できた。
◆女性向け宿泊アメニティ充実、大浴場付きも
大浴場があったのも、うれしかった点。出張や旅行の疲れを癒すのに、広い浴槽に浸かるのは効果てきめん。シャワールームも別に用意されていた。
洗面台には、メイク落としから洗顔、化粧水、乳液まで揃い、万が一、スキンケア商品を忘れても安心。ドライヤーはもちろん、ヘアアイロンも自由に使うことができた。大小バスタオルや上下セパレートの部屋着、使い捨てスリッパも用意されていた。まさに「急な出張で飛び込み宿泊しても安心」な施設だった。
さらに、施設ごとに若干違いはあるものの、アメニティや備品などがほぼ“統一”されていた。どこのファーストキャビンに泊まってもあれとこれは用意されている、と事前にイメージできたのも、女性利用者が支持する理由の1つだ。女性は宿泊を伴うと化粧品などいろいろ事前準備して持参しなければいけない物がある。ファーストキャビンは都市部に多かったので、ファーストキャビンにないものだけをコンビニエンスストアや100円ストアなどで調達して行けばよい、という感覚だった。
先に書いた通り、羽田空港や関西空港といった場所のファーストキャビンはフランチャイズ経営で、今後再開する可能性がまだある。市街地の便利な場所に立地する人気店舗も多い。今の状況が落ち着いたら、経営主が変わっても同様のコンセプトを維持して再開して欲しいと願ってやまない。
■記事中の情報、データは2020年5月20日現在のものです。
文・写真:Aki Shikama / シカマアキ
旅行ジャーナリスト&フォトグラファー。飛行機・空港を中心に旅行関連の取材、執筆、撮影などを行う。国内全都道府県、海外約40ヶ国・地域を歴訪。ニコンカレッジ講師。元全国紙記者。
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