「それ、おかしくない?」「このほうが良くない?」……あなたの職場はこんな風に言い合えるだろうか。そうであれば「心理的安全性」の高い職場だ。チームの心理的安全性とは率直な意見や素朴な疑問、そして違和感の指摘がいつでも、だれでも気兼ねなく言える状態を指す。
この概念が広く知れ渡ったのは、グーグルが行った「効果的なチームは、どのようなチームか」というテーマの調査・分析がきっかけだ。4年間かけて調べたところ、メンバー同士が健全に意見を戦わせ、生産的でよい仕事をすることに力を注げるチームは、離職率が低く収益性も高いという結論が出た。同様の研究は、組織行動学の専門家らも取り組んでいる。
本書『心理的安全性のつくりかた』は、それを高めるためにチームに働きかける手法を体系的に教える一冊だ。著者の石井遼介氏は、組織や個人のパフォーマンスを研究し、心理的安全性の計測尺度・組織診断サーベイの開発や企業研修などを行うZENTech(東京・中央)の取締役を務めている。
求められる「心理的柔軟性」
日本と米国では、働き方や職場の人間関係がかなり異なることもあり、著者は日本の組織にあてはめて理論を検証した。結果として(1)話しやすさ(2)助け合い(3)挑戦(4)新奇歓迎の「4つの因子」がある職場では「心理的安全性」が高いという仮説にたどり着いた。つまり「何を言っても大丈夫」「困った時はお互いさまだ」「とりあえずやってみよう」「多様な考えを受け入れる」――。こうした状態にあるチームが望ましいというのだ。
その際、リーダーに求められるのが「心理的柔軟性」である。心理的柔軟性とは、「その時々に応じて、正論にとらわれず、本質的に役に立つことをすること」だ。そのためには「性格」や「心の中」ではなく、「行動」にフォーカスすることが肝心だ。例えば、「明日のプレゼン、自信ないです」というメンバーに対して上司が「頑張れ、自信持っていけ、絶対大丈夫だ!」というように精神論で助言するのは適切ではない。その人物が「大きな声で話す」「よい姿勢を保つ」といった具体的行動をできているかどうかを見ることが大切だ。
心理的安全性の高い状態を醸成するためには、前述の4因子に関わる具体的な行動を促す必要がある。そこで「行動分析」の出番だ。これは「きっかけ」によって「行動」が起き、そして行動後の「みかえり」が行動に影響を与えるという学問のフレームワークだ。例えば「トラブルを報告してね」と呼びかけるのが「きっかけ」。部下が報告するのが「行動」だ。それに対して上司が「報告ありがとう」と感謝を伝えればプラスの「みかえり」となる。仮に「なんでトラブルが起きたんだ!」と怒鳴れば、マイナスの「みかえり」だ。マイナスの「みかえり」に対して、部下は次回から怒鳴られないための行動を取る。この場合はおおむね一時的な、その場を取り繕うだけの対応になりやすい。
「不安や罰でいうことを聞かせる」「やらせる」よりも、心理的柔軟性や行動分析をうまく使う方がチームはより早く成長した。そしてスピード感を持って様々な施策を進められた――。これは、著者のアドバイスを受けたビジネスパーソンの感想だ。ぜひ本書を、自分自身とメンバーの活性化に役立ててほしい。
情報工場エディター。国際機関勤務の後、人材育成をテーマに起業。その後、ホテル運営企業にて本社人事部門と現場マネージャーを歴任。多岐に亘る業界経験を持つ。千葉県出身。東大卒。
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チームの生産性が上がる環境 「心理的安全性」とは|ブック|NIKKEI STYLE - 日本経済新聞
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