「思春期の年代を迎えた受診者が増えた。大人にぱっと心を開く感じではない人もいるので、丁寧に、緊張をほぐしながら対応している」。東京電力福島第1原発事故の発生当時、18歳以下だった県民を対象に始まった甲状腺検査は20歳を超えるまでは2年ごと、25歳以降は5年ごとに検査の対象となる。より詳細な2次検査の対象となった受診者のサポートを担う公認心理師の瀬藤乃理子は、受診者の年代が上がるにつれて生じる新たな課題について指摘する。
甲状腺検査では、1次検査で一定以上の大きさの(中に液体がたまった袋状の)「のう胞」や、「結節」(しこり)が見つかった場合などに詳細な2次検査を受けることになる。2次検査の受診者や家族が甲状腺がんや放射線の健康影響に抱く不安に対応するため、福島医大は2013(平成25)年、受診者を心理面などから支える甲状腺サポートチームを組織した。
チームを取りまとめる瀬藤は「家族を伴わず1人で来院するケースも非常に増えた。こうした受診者への対応をどうするか、今は過渡期なのだと思う」と現状を語る。
原発事故による被ばくとの関連は「認められない」とされているが、検査で甲状腺がんと診断される人はいる。15~39歳の思春期・青年期はAYA(アヤ)(adolescent and young adult=アドレセント・アンド・ヤング・アダルト)世代と呼ばれ、AYA世代のがん患者には、進学や就職、結婚といった人生の大きな出来事を踏まえた支援が必要になる。
瀬藤は「AYA世代のがんは、数が少なく(当事者が)情報を得ることも難しい。就職をどうするかとか恋愛はどうなるのかなど悩みもあり、特性を踏まえて対応する必要がある」と指摘する。
その上で、他のがんと比べて予後(病状の見通し)が良いとされる甲状腺がんの特性も強調する。「甲状腺がんと診断された人の多くは、学校に行ったり、就職したりと普通の生活をしている。悩みがあっても、周囲の支えがあれば次のステップに進むことができるものだと思っている」
検査が続く中、進学や就職などに伴って親元を離れ、県外に出る受診者も多い。
県外でも同等の支援を 福島医大放射線医学県民健康管理センターで甲状腺検査の部門長を務める志村浩己(ひろき)(59)は、県外でも県内と同等の支援が受けられるような仕組みが必要だと指摘しながら、こう話した。「『震災当時のことは正直、覚えていない』というような当時、子どもだった受診者が、どうして甲状腺検査をやっているのかを理解し、(検査を)受けるかどうか自分で決めなければならないケースが今後増えていく。そのための判断材料を提供していきたい」(文中敬称略)
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