世界最大の食品・飲料メーカーのネスレが、気候変動への対策に向けたロードマップを2020年12月上旬に発表した。2030年までに同社が排出するCO2の量を半減させ、2050年までにネット・ゼロ・エミッション(※1)を目指すというものである。事業計画には、再生可能エネルギーを活用し、植物ベースの食品や飲料を拡大させることなどが盛り込まれており、同社が9,200万トンのカーボンフットプリントを報告した2018年からの進捗を継続的に測定していくという。
今回のロードマップで注目すべきキーワードの一つが、「リジェネラティブ農業」だ。これは農地の土壌を修復・改善しながら自然環境の回復に繋げる農業のことで、「環境再生型農業」とも呼ばれる。具体的には不耕起栽培(農地を耕さずに作物を栽培する方法)や、輪作(同じ土地に別の性質をもつ複数の農作物を何年かに1回のサイクルで作る方法)、合成肥料の不使用といったものが挙げられる。
ネスレは世界中の支店でこのジェネラティブ農業を拡大することに重点を置き、まず今後5年間で32億スイスフラン(約3,800億円)を投下予定。さらに、12億スイスフラン(約1,400億円)をサプライチェーンにおけるリジェネラティブ農業の実践にあてるという。
同社は50万の農業従事者と15万のサプライヤーに対し、商品を高価格で購入し、必要な設備に共同で投資することでリジェネラティブ農業実践のインセンティブを与える。そして2025年までにリジェネラティブ農業で原料の20%を調達し、2030年までに50%に相当する1,400万トン以を調達する。また、調達する地域に今後10年間で2,000万本の木を植え森林再生プログラムを拡大する。
なぜリジェネラティブ農業をここまで重要視するのか。それは、地球規模の課題である気候変動への対策として有効だと考えてられているからだ。土壌が健康であればあるほど多くの炭素を吸収(隔離)するため、今ある農地が環境再生型有機農業に移行することで、世界中で毎年排出されるCO2をさらに減らすことができるという理論である。実際、食品会社のダノンや、アウトドアブランドのパタゴニアなど、ネスレ以外の企業もリジェネラティブ農業に価値を見出し、取り組んでいる。パタゴニアは、他社と協力して最も厳格な「リジェネラティブ・オーガニック認証」を制定し、食品とアパレルの両分野において認証取得を目指している。
気候変動への対策は、国や企業によりさまざまだ。温室効果ガスを排出を減らすために、事業所の効率化、脱化石燃料、再生可能エネルギーへの移行、電気自動車への移行などという方法もある。リジェネラティブ農業では、農作物を作るという経済活動を通じて、いま大気中にあるCO2を隔離できる点が特徴的だ。ますます注目されていくであろうリジェネラティブ農業の今後に期待したい。
※1 事業によるCO2の排出量と、森林などの吸収量を同じにし、CO2を「実質ゼロ」にすること
【参照サイト】Nestle’s net zero roadmap
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Edited by Kimika Tonuma
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