松下幸之助さん曰く、「ピンチから這い上がるチャンスは、ピンチになる前に考えていたことからは生まれない。苦しみに鍛えられ、それが薬となって次の対策が生まれる」とのことであります。
人間、日頃考えていることは大体が常識の域を出ないでしょう。絶体絶命の状況になってはじめて、起死回生の様々な知恵が出てくるということは間違いないと思います。一代で一大企業を創り上げた松下さん御自身も、幾度となくピンチを経験され「苦しみに鍛えられ」、その度毎に「次の対策」を打ち立て這い上がって行かれたのだろうと思います。
松下さんは例えば、「好況よし、不況さらによし」という味のある言葉を残されています。不況は会社にとって、本物に生まれ変わるチャンスです。不況期には、ものやサービスは簡単には売れません。そこで会社としては、徹底的に設計段階から製品やサービスの見直しを行います。会社が生き残るため、身体を筋肉質にし、体力をつけて行く絶好の機会となるのです。
「五パーセントより三〇パーセントのコストダウンのほうが容易」と松下さんが言われるように、雑巾を絞っても一滴も出ないというのであれば、「設計段階から全て見直そう」といった発想が自然と生まれてくることでしょう。そういった機会を与えてくれるのが不況であり、それは30%のコストダウンのような大胆な革新に繋がってくるわけです。
上記は正に孫子の言、「死地に陥れて後(のち)生(い)く…味方の軍を絶体絶命の状態に陥れ、必死の覚悟で戦わせることではじめて、活路を見いだすことができる」と同じではないかと思います。背水の陣を敷き如何にすべきかと考え抜かざるを得ない「死地」の環境下に置かれた時、人間というのは火事場の馬鹿力や「次の対策」が出てくる部分があるのでしょう。
例えば企業再生にあっては、「運が良ければ」「上手く行ったら」といった類の問題でなく、中途半端なコミットメントでは成し得ません。「上手く行かねば自分も終わり」という位の覚悟を決め、『詩経』にある「戦々兢々(せんせんきょうきょう)として、深淵に臨むが如く、薄氷を履むが如」く、一蓮托生で事に全身全霊で当たらねばならぬものです。
順風満帆の中、革新的発想は中々生まれません。寧ろ、環境の悪い時の方が良い発想が出てきます。「かつてない困難からは、かつてない革新が生まれ、かつてない革新からは、かつてない飛躍が生まれる」わけです。そして何より人間、ピンチから這い上がった時にこそ大いなる自信ができ、一皮剥けて人物が出来てくるのです。
編集部より:この記事は、「北尾吉孝日記」2022年7月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。
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