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Wednesday, December 14, 2022

2023年、日本の給料はどうすれば上がる? 低賃金を生み出している根深い問題【入山章栄・音声付】 - Business Insider Japan

layaknaik.blogspot.com

終身雇用では、人をずっと同じ組織に留めていますよね。いわゆるメンバーシップ型の雇用です。すると、その雇われている人はずっと同じ会社にいるし、「◯◯会社」にいるということだけが自分の価値になりがちなので、自分が他社で通用するスキルや能力をどのくらい持っているか分からないわけです。ですから、自分という人材を果たして労働市場で高く売れるかどうか、判断がつかない。自分の市場価値が分からない、ということですね。

自分が今の会社を辞めて他の仕事に就いたらいくら給料がもらえるかが分からなければ、転職するのが怖くなる。結果、さらに今の職場にしがみついてしまうのです。

逆に、いわゆるジョブ型雇用の世界では、人はその人の特定の職種のスキルや能力で評価されます。ジョブの特性は多くの場合、労働市場全体で共有化されたモノです。だから、自分のそのジョブでの市場価値が分かりやすい。それを把握していれば、給料の高いほうに移るのは自然な流れですし、企業からしても優秀な人材であれば高い給料を払っても来てもらいたい、ということになる。

つまり簡単に言うと、今の日本ではメンバーシップ型雇用が主流なので、市場メカニズムを使った人間の最適な配分ができていないのです。これが第二の構造的な問題です。

この「雇用が流動化しにくい」「ジョブ型雇用が進んでいない」という課題を置き去りにしたまま、賃金だけ上げろと言っても無理なんですよ。

tokiwa_ayuko

BIJ編集部・常盤

でも、いきなり人をクビにするのは難しいですよね。労組は当然反対するでしょうし、日本では労働者が労働基準法で手厚く守られています。それに賃金を上げるためとはいえ、自分が解雇されるリスクを高めることにイエスと言える人はほとんどいないのでは?

一つは、やはり日本の解雇規制をある程度見直す必要はあるでしょうね。加えて、日本だと人を解雇する企業は、やはり世間から「あの会社は冷たい」と思われたりするのも大きな障害になっています。

もう一つ、制度的な仕組みで言うと、批判するつもりはありませんが、いろいろな労働組合が集まった組織である「連合」が大きすぎるのかもしれません。本来、最適な賃金や働き方は業種によって違うはずでしょう。しかし連合はあらゆる業種の組合が集まった超巨大組織なんです。そこにはいろいろな人がいるから、そのすべての要求を聞いていると逆に連合全体の意見は丸くなってしまい、結局、共通する要求は「雇用維持」になる。

僕は連合の方と交流する機会も少しあるのですが、本当は連合内部にも「もう低賃金で終身雇用の時代ではないよね」と分かっている方も大勢いらっしゃいます。さらに言えば、僕は厚生労働省の労働政策審議会の委員も務めているのですが、厚労省の内部も同様の認識を持っている官僚は多くいます。

それでは、どうやって今の状態から脱却するか。それには、やはりこれまでとは「逆のサイクル」をつくっていくしかないと思います。

まずわれわれ労働者側から見ると、「本当はもっと別の会社に移った方がお金が稼げるはずなのに、今いる会社から出たくない人」が多すぎる。つまり雇用の流動化が進んでいない。それは先ほど言ったとおり、メンバーシップ型雇用で転職したことがないから、自分の市場価値が分からないという人が多いからです。逆に言うと、自分の市場価値は一度転職すると分かる。

転職しないまでも、ヘッドハンターに会ったり、転職サイトに登録したりするだけでもだいたいのところは分かるものです。元ZOZOの田端信太郎さんが言う、「年に一回ヘッドハンターに会うのは健康診断のようなもの」というのは、けだし名言だと思います。

何歳からでも「リスキリング」で給料を上げる

そういうふうにして、もし自分の市場価値が思ったより高いことが分かったら、もっといい条件のところに移ればいいのです。問題は、自分の市場価値が思ったより低いと判明した人です。この方々はどうすればいいのか。その対策として最近注目されているのが「リスキリング」ですね。つまり新しいスキルを身につけることです。

例えば今45歳で年収500万円の人でも、新しい考え方やスキルを身につけていけば、今からだって年収700万円とか、800万円、1000万円にできるかもしれない。そういう社会的な仕組みをつくっていくことが重要です。率直に言って、日本はこのリスキリングの制度がとても弱いです。

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BIJ編集部・常盤

リスキリングという言葉をここ1、2年で頻繁に耳にするようになりましたね。

ヨーロッパや北欧ではこのリスキリングの制度がちゃんと機能しています。例えばドイツでは今、製造業の倒産に伴う失業が多発していますが、プログラミングを学べる機会があって、40歳を過ぎたおじさんでもデジタル人材に転換し、めちゃめちゃいい給料をもらうようになった、というような例が普通にある。デンマークでは、3000種類の職種に対するリスキリングのプログラムがあり、若者から中高年までがしょっちゅうこの研修を受けているのです。

「何歳からでも新しいことを学べば、他の仕事に就けるし給料も上がる」という世界が常態化していくと、これまでと逆の好循環の回転が始まります。つまり、能力が上がれば当然お給料も上がる→高いものでも買える余地が生まれる→企業も高い値付けができる→物価も上がる。こうすれば、日本はデフレから脱却できるはずです。

tokiwa_ayuko

BIJ編集部・常盤

「企業がもっと内部留保を吐き出せば給料を上げられるのでは」と思っていましたが、そう単純なものではないのですね。私が思っていた以上に根の深い問題でした。

日本企業はそれほど現預金を溜め込んでいませんよ。もちろん溜め込んでいる会社もあるけれど、そういう会社は投資家のプレッシャーを受けて、どんどん投資したり、自社株買いをしたりせざるをえなくなるはずです。

それより大事なのは雇用の流動化を促すこと。その本命は、ちょっと言葉は悪いけれど“中高年のホワイトカラーのおじさん”です。人数が多すぎるし、終身雇用の時代が長かったので自分の価値を知らない。この本丸に手をつけなければ、しょうがないです。厳しい言い方だったらすいません。でもそれが日本の現実です。

tokiwa_ayuko

BIJ編集部・常盤

一朝一夕には変わらないかもしれませんが、2023年を今よりいい状況にするためには、私たちにもそれなりの努力が必要ですね。

【音声フルバージョンの試聴はこちら】(再生時間:25分4秒)※クリックすると音声が流れます

入山章栄:早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所に勤務した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールアシスタントプロフェッサー。2013年より早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)准教授。2019年から現職。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』『世界標準の経営理論』など。

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