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Monday, March 13, 2023

コラム:もし台湾有事発生なら、円は上がるのか下がるのか=植野 ... - ロイター (Reuters Japan)

layaknaik.blogspot.com

[東京 14日] - 将来のどこかで中国が台湾への軍事侵攻を始めた場合、外国為替市場にはどのような影響が及ぶのだろうか。ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めた昨年2月以降、国内外のマーケット関係者の間で比較的頻繁に話題になるテーマだ。

 3月14日、将来のどこかで中国が台湾への軍事侵攻を始めた場合、外国為替市場にはどのような影響が及ぶのだろうか。植野大作氏のコラム。写真は3月10日撮影(2023年 ロイター/Dado Ruvic)

少し前までなら「中国の台湾侵攻リスク」については、可能性がゼロとは言い切れないが、実際に起きる可能性は極めて低いとみる市場関係者が多かった。ただ、現実の世界では適切な国家統治の仕組みや軍事力を行使する際の規範について、日米欧英加豪などの西側主要国と同じ価値観を共有していない国々も数多くある。

ロシアのウクライナ侵攻を契機にして「20世紀型の暴力を駆使した領土略奪戦争はもう起きない」との見方は、希望的観測に基づく楽観論に過ぎないことを多くの人々が意識せざるを得なくなっている。

以下、台湾有事が起きた場合の為替インパクトについて、筆者の見解を示しておきたい。

<直後は円買い>

もしも中国が台湾への軍事侵攻を開始、いわゆる「台湾有事」のテール・リスクが現実になった場合、外国為替市場が示すイニシャル・リアクションとしては、紛争当事国の通貨である人民元と台湾ドルが最も強い売り圧力にさらされる一方、米ドル、ユーロ、円などの西側主要国の通貨が全般的に買われる展開になる可能性が高い。

一方、日本国内の為替関係者にとって最も気になるドル/円相場については、「台湾有事勃発」の第一報が飛び込んできた直後に起きる世界的な株価の崩落に触発されて、急激に進む米国債利回り低下の影響を当初は強く受けることになるだろう。ドル/円相場が示す初期反応は、ドル安・円高方向への下振れになる可能性が非常に高い。

<ウクライナ戦争後、買われたルーブルの理由>

ただ、その後の外国為替市場で観測される2次反応や3次反応については、様々な要素が複雑に絡んでくるため完璧に読み切るのは難しい。例えば、昨年2月下旬、ロシアがウクライナへの軍事進攻を開始した直後こそ、国際紛争勃発時における為替市場のセオリー通り、ロシア・ルーブルとウクライナ・フリブナは暴落したが、しばらく時間が経つにつれてウクライナ・フリブナは一段安になった。

その一方、ロシア・ルーブルは急激なV字回復に転じて侵攻開始前の水準よりも、ルーブル高の水準で取引されるようになったのは記憶に新しい。

西側諸国による資産凍結などの制裁を恐れるロシアの大富豪や、ロシア企業などによる海外資産のリパトリエーション(本国回帰)の思惑、ロシア産エネルギー資源の価格高騰による交易条件の改善が、ロシア・ルーブルの超V字回復を促す追い風になったのではないか、と言われている。

<01年同時多発攻撃、ドルは急落後に急騰>

その他の国で過去に起きた類似の事例に目を転じると、2001年9月11日に対米同時多発攻撃が起き、米国が「テロとの戦争」を始めた際も、ドル/円相場は一時的には大きく下振れして122円前後から115円台まで急落した。だが、その後は超V字回復的に切り返し、なぜか約3倍返しのドル高が進行。135円台まで反発したケースもあった。

甚大なテロの被害に遭った米国経済に復興特需の刺激が入ったことや、想定外の国難に直面した米国人マネーの国内回帰が起きたのではないか、とマーケット・トークが盛んに飛び交っていた当時の記憶が蘇る。

<初期反応後の円、複雑な要因交錯か>

これらの事例から類推すると、「台湾有事」が勃発した際、初期反応で人民元や台湾ドルが売られても、必ずしもその状態が続くとは限らない。

今後、台湾海峡の周辺で何らかの「有事」が起きたとしても、実際に起きた軍事的な摩擦や衝突の程度や、それに対する各国の対応によってその深刻度は大きく違ってくる。当該時点における当事国のマクロ経済、金融・財政政策、国際資金フローへの影響なども踏まえて、個別に判断するしかないだろう。

先述のように、ドル/円相場への影響については「台湾有事」の発生直後こそ、初期反応は恐らく円高サイドに振れそうだが、国際紛争の勃発時には「戦地に近い地域の通貨」が売られるのが一般的な為替市場のセオリーなので、円が一方的に買われ続けるとは思い難い。

「台湾有事」でグローバルに張り巡らされた半導体の供給網が混乱し、西側諸国が中国に対して経済制裁を課した場合、関係各国のマクロ経済や基幹産業にどのような影響が及ぶのか、短い時間で正確に読み切るのは恐らく無理だ。

ドル/円相場への影響を考える上で最も重要な要素である日米両国の金融・財政政策の方向性や速度にどのような違いが出るのか、誰にも即答できないもやもや感が漂うだろう。ドル安・円高の初期反応が一巡した後に引き起こされる2次反応や3次反応には複雑な要素が絡んできそうだ。端的に言って「不透明」としか言いようがない。

<あり得るスイスフラン買い/アジア通貨売り>

そのような状況下で、最も分かりやすく買い圧力にさらされる疎開先通貨の最有力候補は、スイスフランになるだろう。周知のようにスイスは19世紀の昔から軍事面では永世中立国である上、近年においては巨額の貿易黒字を非常に安定的に稼ぎ出す国になっている。「戦争に巻き込まれる恐れがない恒常的な貿易黒字国」の通貨であるスイスフランは、国際紛争の勃発時に「リスク回避マネーの受け皿」として選好されやすい。

今後、万が一にも台湾海峡の周辺で何らかの「有事」が起きた場合、スイスは地理的にも紛争地域から遠く離れているので安心感がある。日本国憲法9条で戦争放棄を謳っている戦争忌避国の通貨である円も、かつては国際紛争の勃発時に買われやすいというイメージがあった。

だが、近年の日本は貿易収支の赤字体質が定着しているだけでなく「台湾有事」の際には戦地に近過ぎるので安全な疎開先とは見做され難いのではないか。

実際、昨年はロシアのウクライナ侵攻後、スイスフラン/円が1980年1月以来、約42年ぶりの高値圏まで買い進まれる場面が観測された。かつて多くの市場関係者に共有されていた日本円の「安全神話」の衰退を示唆する象徴的な出来事だった。

あくまで仮定の話だが、この先どこかで「台湾有事」が起きた場合、日本を含めた近隣のアジア通貨に対してスイスフランは全面高になる可能性を秘めている。

外国為替市場では、アジア通貨とスイスフランのクロス・マーケットに注目が集まり「アジア通貨売り・スイスフラン買い」が鉄板トレードとしてしばらく流行することになるだろう。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍。国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

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