タペストリーのように綴られる、不可思議な日常。 『去年の雪』
突然の死で幕を開けるこの小説に主人公はいない。群像劇というにはあまりにも多くの登場人物の日常が次から次へと切り取られ、積み重ねられていく。
夫の浮気に気付いている妻、学校をさぼっている少女、男性コンパニオンのアルバイトをしている整体師、彼を指名する老女。誰かにとっての他人は誰かにとっての恋人であり、同じ場所にいても違う時間が流れている。日常と呼ばれる時間の不可思議さが回り舞台のように浮かび上がる、江國香織の新境地。
*「フィガロジャポン」2020年5月号より抜粋
realisation : HARUMI TAKI
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