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Wednesday, November 24, 2021

「安いニッポン! なぜ賃金は上がらないのか?」(時論公論) - nhk.or.jp

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勤労感謝の日の時論公論です。
今度こそ、賃金は上がるんでしょうか?
実は、日本ではこの30年間、平均賃金がほとんどあがっていません。
これは異常なことと言わざるを得ません。
世界から置いてきぼりをくらっている、安いニッポン。 
岸田総理大臣は
「国民の給与を上げる、具体的アクションを起こす」と述べて、
賃上げに強い決意を示しました。
賃上げには、政権の命運がかかっている、といって決して言い過ぎではありません。

そこできょうは、
「安いニッポン、なぜ賃金は上がらないのか?」と題しまして
① 韓国に抜かれた平均賃金
② “物価も安いので暮らしやすい”は本当か?
③ 問題はパイの分け方
この3点について考えたいと思います。

【 韓国より低い日本の平均賃金 】
まず、いかに、日本の賃金が低いのか、その現状を確認しておきます。

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このグラフは、OECD・経済協力開発機構が発表した平均賃金の国別ランキングです。
年収ベースで、ドルで計算されています。
一位はアメリカで、(6万9392ドル)、
1ドル110円で換算すると平均賃金は、763万円程度となります。

他のG7諸国では次いでカナダ、ドイツ、イギリス、フランスと続いてようやく日本。
全体の順位では22位。
平均賃金は(3万8515ドル)、同じく換算すると、424万円程度です。

ちなみに韓国は、日本よりも高い19位。
平均賃金は(4万1960ドル)462万円程度で、
日本よりも年収で40万円ほど高くなっています。

【 置き去りにされた日本 】
いつから日本はこんなに賃金が低くなったんでしょうか?
ここで30年前にさかのぼってみます。

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1990年、日本ではバブルの絶頂が過ぎて株価の急落が始まった年です。
この時、日本の平均賃金はイギリスやフランスよりも高い水準でした。
韓国と比べても、日本の方が7割程度、高い水準でした。
問題はここからです。

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各国の賃金は、それから上昇していきます。
米国は30年でおよそ1.5倍に、韓国はおよそ2倍に増えました。

一方、日本は、というと、ほぼ横ばい。
30年かけて上がったのはわずかに4%程度。
ほとんど増えていないことになります。
世界に置き去りにされた国。それが日本の賃金の現状です。

【 物価も安いので暮らしやすい?】
ここで、話しを進める前に、一つ確認しておきたいことがあります。

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よく言われる話しとして、日本の賃金は低いが、物価も安いので、
暮らしにはあまり影響はない、という見方があります。

しかし、これには注意が必要です。
日本の経済や社会がまるで鎖国のように閉じていて、
必要なモノやサービスを全て国内で調達できているのなら、それでいいかもしれません。
しかし、日本は、エネルギーや食糧をはじめ、多くのものを海外に頼っています。

海外から入ってくる値段はしだいに上がっていくのに
日本の賃金が上がらないままなら
買えるものは次第に減っていき、生活は苦しくなります。

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現に今、ガソリン価格が高騰し、
また大豆や小麦などの輸入価格の上昇で様々な食品が値上がりし、
家計への影響が大きな問題になっています。
賃金が上がらない限り、生活はますます厳しくならざるを得ないわけです。

【 政権の賃上げ政策 】
では、どうすればいいのか?

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岸田総理は、今月10日の会見で、
「国民一人一人の給与を引き上げるための具体的アクションを起こす」
と述べて、賃上げを実現させる、強い決意を表明しました。
まさに、賃上げには、政権の命運がかかっているわけです。

その政策の柱は、三つ。

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① まず、賃上げ優遇税制の強化。
企業が賃金を上げれば、その一部を法人税から差し引いて安くする、
という仕組みを、さらに拡充します。

ただ、これには課題もあって、
そもそも企業のおよそ7割は赤字で、法人税を払っていません。
払っていない以上、その税を安くすることもできません。
このため赤字の中小企業に対しては、補助金を出す要件として
賃上げを考慮することも検討するとしています。

② 次は、“官製春闘”です。
岸田総理が直接、労使の代表に対し、賃上げを要請する、としています。
この官製春闘と呼ばれる手法は、安倍政権の時にもとられましたが、
今後、どれだけ実際に効果をあげられるかは未知数です。

③ そして新しい取り組みが、公的価格評価検討委員会。
これは、公的な制度によって賃金が決まる人たちの額を
政府の判断で上げようというものです。
来年2月以降、介護や保育、それにコロナ対応にあたっている看護師などの賃金を
1%から3%程度引き上げる方針です。
こうした動きが、他の民間の賃上げにどれだけ波及できるかが課題です。

【 問題は「パイ」の分け方! 】
そもそも、なぜ30年間も賃金が上がらないのか?
これには様々な理由がからみあっています。

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いわく、
▼デフレが続いたから、
いわく、
▼企業の生産性が低いから。
いわく
▼賃金の安い非正規が増えたから。
そして、
▼大企業による“買いタタキ”で
下請け企業が値上げしにくいから。
などなど様々な理由が重なって
まるで岩盤のようになって賃金を抑え込んでいるわけです。

こうした構造的な問題を突破することこそ
政権がかかげる、「新しい資本主義」に期待される役割です。
具体的な対策としては、金融政策や、デジタル化、雇用改革、
そして公正取引委員会による監視強化など多岐にわたりますが、
共通する大きな論点が、パイの分け方の見直しです。
そこで、注目されるのが、
これまでたびたび議論になっている、企業の内部留保の問題です。

【 積みあがる 内部留保 】
内部留保というのは、
企業の売り上げから、経費や税金や配当などをすべてひいた後に残る、いわば企業のもうけの蓄積です。

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企業全体としての内部留保は年々増えていて
2020年度は過去最高の484兆円に達しました。
国家予算の4年分です。

企業としては、万が一の事態に備えて
すぐに使えるお金を手元に置いておきたいという心理が働きます。
しかし、その一方で、
実際に積みあがっている額は、欧米諸国と比べてもあまりにも巨額で、
大事なおカネを賃金にも、設備投資にもまわさず、
ただためているのはおかしいという批判もあります。

このため、先の総選挙でも、与野党の議員の間から
内部留保に課税をして、おカネをもっと有効に活用するよう促すべきだ、
という主張が相次いで出されました。
実際、アメリカでは以前から内部留保への課税が行われています。
今後、分配政策の中でどう位置付けるかが問われることになりそうです。

【 政労使会議の再開を! 】
そして最後にもう一つ、論点としてあげたいのは、政労使会議の再開の必要性です。

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かつて、安倍政権の時に
政府と労働組合、経営者、それに有識者も加えて
「政労使会議」という政策会議が開かれ、
ここで、賃上げの機運が醸成されていきました。
途絶えていたベアが復活するなどの成果もありました。

本来、賃上げはあくまで当事者で決めるものであって、
政府が介入するのは邪道です。
しかし、今、経済の先行きは感染再拡大のおそれもあり不透明です。
そうした中、30年間の停滞から抜け出し、賃金を着実に上げるには
時限的な措置として政労使会議を再開させ、
今後数年間の賃上げの道筋について広く議論する必要があるのではないでしょうか?

そうすることで、新しい資本主義が目指す、
「その先の成長につながる分配」が可能になるのではないのでしょうか?
ここは政策を総動員すべきだと思います。

(竹田 忠 解説委員)

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