[東京 10日 ロイター] - ウクライナ危機で原油など資源価格が急騰し、日本の物価上昇率も4月以降は大幅に拡大するとの見方が日銀でも増えている。ただ、今回の物価上昇は原材料高主導で、賃上げの広がりに不透明感があるほか、中長期のインフレ予想の高まりも限定的。ウクライナ危機で国内経済が下押しされる懸念もぬぐえず、足元で物価の上昇圧力が高まる中でも、日銀は緩和的な金融政策を続けて景気を下支えするスタンスを維持するとみられる。
<原油150ドルなら、8月にコアCPIは2%突破か>
日銀では、物価がこの先、伸び率を高めていくとみている。清水誠一企画局長は9日の衆院財務金融委員会で「エネルギー価格が大幅に上昇し、原材料コスト上昇の価格転嫁が進むもとで、携帯電話通信料下落の影響も剥落することから、この後はプラス幅をはっきり拡大していく」と述べ、1月の「経済・物価情勢の展望」で「プラス幅を拡大していく」としていた表現を強めた。
日本の消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の前年比伸び率について、UBS証券は8日付で原油価格別の見通しを示した。それによると、ブレント原油が150ドルまで上昇して同水準で高止まりすれば、今年8月にコアCPIが日銀が目標とする2%を突破、来年1月には2.8%まで上昇するという。
みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介・上席主任エコノミストは、9日時点の予測として4―6月期に2%程度、7―9月期に2%台前半から半ばで推移すると見込んでいる。WTI原油が140―150ドルで横ばい推移することを前提として、携帯電話通信料の値下げ影響の残存、春に観光需要喚起策「Gotoトラベル」が再開される可能性を織り込んだ。こうした特殊要因を除けば、7―9月期にコアCPIは3%近傍になる可能性があるとみている。
<緩和継続、賃上げや予想インフレに目配り>
物価の先行きへの目線が上がる一方で、日銀では金融緩和の維持が必要だとの声が根強い。賃上げの広がりや中長期の予想インフレ率の高まりがまだ不十分で、金融緩和によって景気を支えていくことが必要だとみているからだ。
日銀幹部はこれまで、CPIが2%に到達するだけではなく、賃金の持続的な状況が必要だと繰り返し発信してきた。しかし、ウクライナ危機の発生で企業の賃上げがどこまで広がりを見せるか不透明感が高まっている。日銀では、3月期決算企業が次の年度の収益計画を検討しはじめる時期に今回の情勢不安が重なったことで、企業は賃上げにより消極的になるのではないか、との見方が出ている。
購入頻度の多いガソリンや食料品の値上げで、短期的な予想インフレ率は高まっているものの、中長期的な予想インフレ率がそれほど高まっていないことも、日銀では注目されている。
内閣府の2月消費動向調査では、消費者が予想する1年後の物価の見通しについて「上昇する」との回答が91.7%となり、現行の調査方法になる前の参考値を含めた2004年4月以降、最も高い水準となった。
その半面で、日本の期待インフレ率(ブレーク・イーブン・インフレ率、BEI)を10年物で見た場合、10日時点で0.92%と2%に届いておらず、過去最高水準にある米国とは対照的となっている。
ウクライナ危機で欧州経済を中心に世界経済の下振れリスクが高まっている。原油や穀物の市況高騰は、新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」の感染拡大で急減速した日本の個人消費の重しとなる。日銀では景気下振れへの警戒感が出ており、こうしたことも緩和継続をサポートする。
<物価上昇、持続性を注視>
UBS証券の栗原剛次席エコノミストは「原油が130、150ドルに達して当分その高水準を維持した場合でも、コアCPIが2%を上回り続けるのは8―11カ月と1年以内で、それ以上の期間にわたって高止まりすることは考えにくい」と指摘。「1年以上、2%以上上昇し続けるためには、インフレ期待や賃金などの上昇が必要不可欠だ」とする。
原油市況は乱高下している。コアCPIが4月から上昇ピッチを速めるとしても、どの程度持続性があるのかは、危機がどの程度長期化し、原油価格がどの水準で落ち着くのかによる。物価上昇の持続性について、もう少し事態の推移を見極める必要があるとの声が日銀では出ている。
(和田崇彦 グラフィック作成:照井裕子 編集:石田仁志)
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