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今年3月、米Apple(アップル)が手掛けてきた2つの買収がニュースとなった。
1つはいわずもがな、2021年に落札した映画「CODA」(国内未配信)である。同作品は、アップルが2019年にローンチした有料動画配信サービス「Apple TV+(アップルTVプラス)」での配信に向けて、サンダンス映画祭史上最高額の2500万ドルで落札したものだ。3月27日に発表されたアカデミー賞では、米Netflix(ネットフリックス)が作成した作品を退け、ストリーミングサービスとして初めて作品賞を受賞している。
もう1つの買収は、3月23日付でCODAの6倍に当たる1億5000万ドルの金額を投じたとされる。買収されたのは英国のFinTech企業であるCredit Kudos。GAMMA(Google、Apple、META、Microsoft、Amazon)と呼ばれる米国のビッグテック企業が、FinTech企業を買収するケースは意外と珍しい。昨年日本で話題になった米Google(グーグル)によるpring買収も非常に珍しい一例として位置づけられたなか、日本のFinTech産業やビッグテック企業の持つビジョンについてさまざまな議論が交わされたことは記憶に新しい。
本稿では本買収を契機に、ビッグテック企業がFinTechサービスを買収することへの考察を行いたい。
成長途上の王道FinTech企業
Credit Kudosは英国で、オープンバンキングを活用して信用度を計測する機関である。設立は2015年。従業員数は50人未満で、累計調達額は780万ポンド(約13億円)という、まだ成長途上のベンチャーという規模感だ。実は買収自体は、両社から公表されているものではないが、同社サイトを注意深く見ると利用規約やプライバシーポリシーの記載から、アップルの子会社となったことが分かる。
オープンバンキングによる信用度計測とはどのようなものか。英国では現在、大手を中心に92の金融機関(本稿執筆時点、OBIEサイト登録ベース)がAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を提供しているが、Credit Kudosは預金者によるデータ連携を基に、新たなスコアリングを提供するサービスといえる。
同社のサイト上では審査側である金融機関が、個人の収支状況や安定性についての情報を得られるだけでなく(図表の左部分)、機械的データを銀行から抽出するイメージが掲載されている。図表の右部分では、ある個人がロイズ銀行に1万1800ポンドの預金残高を保有しており、100ポンドまでの与信枠を持っている旨が分かる。このデータをそのまま、返済力や他の金融機関の与信情報として使うことができるわけである。
英国における信用情報機関は、米国のそれと同じくアイルランドExperian(エクスペリアン)、米Equifax(エクイファックス)、米TransUnion(トランスユニオン)といった名前が並ぶが、過去の返済履歴や選挙人名簿上の記載などを中心に信用を判定しているとされる。だがCredit Kudosでは前述のように、借り手側の同意を基に金融機関のデータと連携し、より精度の高い判定を自動化してきた。そして得られた信用情報を、50を超えるクレジットカード会社や消費者金融に提供している。
非伝統的な手段による信用創造は、FinTechにおける最も王道的なサービスといえる。オープンバンキングの技術や制度が最も整備されているといえる英国において先駆的にこの活動を実践することで、いずれオープンバンキングが実現・進展する他国においてもこのアプローチが有効である、との仮説を持つことができる。
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