米大リーグ機構(MLB)は数週間後にトレード期限を迎える。トレード成立の有無にかかわらず、今季終了後にフリーエージェント(FA)となるロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手は、ほぼ確実に大金持ちになるだろう。二刀流のスーパースターは6億ドル(約830億円)相当の長期契約を手にするとの臆測もある。
こうした状況を気前の良い球団のお陰だとするのは安易だ。現在のような年俸制度の起源をたどれば、あまり知られていない事実に行き着く。「ニグロリーグ(黒人リーグ)」で始まったFA制度の原型だ。
プロ野球は1876年のナショナルリーグ創設で始まった。最初の数年間は人材争奪戦で年俸が急上昇し、一時は運営コストの3分の2を占めるまでになった。そこで球団オーナーらは収益性を維持しようと契約に保留条項(リザーブ条項)を設け、一度契約したプレーヤーには選手生涯、他の球団に移籍することを禁じた。選手はチームに残るか、野球をやめるかの二択だった。
その結果、選手らの給与は低く抑えられた。1882年の平均年俸は1375ドル。現在の4万1000ドルに相当する。
選手らはこのカルテルに抗議するすべを持たなかったが、他の球団オーナーらは競合リーグを創設することで対抗できた。1880年から1920年にかけ、新興リーグは高報酬の約束で選手を誘い、ナショナルリーグの支配力低下を狙った。
選手の年俸はこれで一時的に急増したものの、長くは続かなかった。ナショナルリーグは最終的に競合リーグと手を組み、それぞれの保留条項を尊重。ナショナルリーグは結局、他リーグ球団の大半を吸収した。
しかし大リーグの外では、まったく異なる報酬モデルが根付いていた。1920年代に創設されたニグロリーグは、市場原理を完全に容認。選手との契約が文書化されることはまれで、契約履行は難しかった。文書があったとしても、期間はたった1年。すべての交渉カードを持っているのは選手の方で、より高い報酬を求めて球団を転々とした。
つまり野球のFA制度を最初に利用したのは、黒人選手らだったと言えよう。サチェル・ペイジのようなスター選手は、シーズン途中を含めて何度も所属チームを変えた。米国でのシーズン終了後は、メキシコやドミニカ共和国のリーグでも活躍した。保留条項で縛られた白人選手には、こうした選択肢はなかった。
この制度に真っ先に異議を唱えたのが、野球界の人種差別撤廃を訴えるアフリカ系アメリカ人選手だったのは偶然ではない。ジャッキー・ロビンソンは議会で、「特定の球団でプレーしたいかどうかについて、選手に意思表明の手段が与えられるべきだ」と証言した。
ロビンソンの影響を受けた黒人プレーヤーの一人、カート・フラッド(セントルイス・カージナルス)は1969年、MLBのコミッショナーに宛てた書簡の冒頭で、「メジャー入りから12年がたった私は、自分がその意思に関係なく売買される所有物だとは思っていない」と印象深い言葉を残している。フラッドはその後、保留条項は奴隷制を廃止した憲法修正第13条に反するとして、さらに一歩踏み込んだ訴訟を起こした。
法的係争と並行して、フラッドは世論への訴えも続け、数々のテレビやラジオのインタビューで保留条項の不正義を強調した。最高裁が1972年に下した判断は、フラッドの主張に反するものだったが、世論は大きく変化。他の選手らも制度変更を求めるようになった。
1975年にはアンディ・メッサースミスとデーブ・マクナリーの白人選手2人が保留条項に異議を唱え、調停局に仲裁を申し立てた。世論の変化という追い風を受けて両氏の主張は認められ、選手の契約と報酬は劇的な変化を迎える。
1976年の平均年俸は5万1501ドル。現在での27万5000ドルに相当する。平均年俸は調停局の判断から1年で15.3%増加、その翌年には47.7%アップし、次の年にはさらに31.3%増えた。
このままでは破産しかねなかった球団オーナーたちは、新たな収入源に助けられた。チケット収入は1981年から85年までにわずか5%増えたに過ぎないが、テレビ放映権の収入は同期間に211%跳ね上がった。関連商品の売り上げなども穴埋めに貢献した。
しかし新たな制度はもっと怪しげな慣行も招き入れた。選手らは報酬アップを求めるだけでなく、成績に関係なく報酬が長期にわたって保証される複数年の契約を要求するようになった。
大谷選手の契約額がメジャー史上最高を更新するとの臆測が飛び交っている。才能ある選手よりも球団の利益を優先したシステムを打破しようと、黒人選手らが始めた闘いは今、大谷選手によって最も極端な形で具体化する最新例になるのかもしれない。
(スティーブン・ミーム氏はジョージア大学の歴史学教授で、共同著書に「大いなる不安定」があります。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題: If Ohtani Gets $600 Million, Here’s Who to Thank: Stephen Mihm(抜粋)
(この記事は一部に自動翻訳を利用しています)
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