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Wednesday, December 20, 2023

「二酸化炭素除去」の加速に懸念の声が上がる理由 - WIRED.jp

layaknaik.blogspot.com

誰に尋ねるかによって、国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)での合意は、アラブ首長国連邦という産油国で達成できたことから「意外な成功」と評価されたり、失敗と評価されたりする。あるいは、その中間のどこかだと言われることもある(気候変動は複雑であり、気候政治はもっと複雑だ)。それでも、史上初めて参加国が「化石燃料からの脱却を進める」と合意したのだ。「化石燃料の段階的な廃止」ほど野心的ではなかったが、少なくとも脱炭素に向けた一歩ではある。

二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスの排出をやめない限り、人類は温暖化によって酷くなる一方の自然災害に直面し続けることになる。これは、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が何年も前から警告してきたことだ。

IPCCは同時に、気温を下げるには大気中からCO2を取り除く必要があることも強調してきた。とりわけ、産業革命前に比べて気温上昇を1.5℃以内に抑えるというパリ協定の目標値はとても守れそうもないことがほぼ確実な現状において、人類はそうするしかない。そして、COP28の合意文書はCO2除去(Carbon Dioxide Removal、CDR)技術の加速について短く触れている。

炭素除去に頼らざるを得ない

「CDRを遅らせることは、それ自体がリスク要因となります。なぜなら、科学が進むべき方向として示しているのですから」。そう語るのは、炭素管理システム企業の連合体である「カーボンビジネス協議会(Carbon Business Council)」の共同創設者であり役員であるベン・ルービンだ。「CDRは、温室効果ガスの排出そのものを削減する重要な取り組みと、足並みを揃えながら実施していかなければいけないと考えます」

グレゴリー・ネメットは、ウィスコンシン大学マディソン校で低炭素イノベーションを研究し、CDRに関する新しいCOP報告書の共同執筆者だ。彼は、COP28の合意文書の強みは、2035年までに温室効果ガスの排出量を60%減らすと呼びかけた点だと言う。だが、この野心的目標は、人類がいま直面している緊急事態を反映していない。

「2025年をピークにして、それ以降の温室効果ガス排出量を減らしていくということ。そして新たな化石燃料インフラへの投資を止めるということ。この2つの合意が、COP28ではできませんでした。これは今回の合意の弱みだと言えます」とネメットは強調する。

CO2を大気中に放出するほど、気温上昇を防ぐためにCDR技術に頼らざるを得なくなってしまう。

「CDRの力だけでは、化石燃料を使い続けるなかで排出される温室効果ガスを帳消しにはできません。そうは言っても、『化石燃料からの脱却を進める』という提言は目標達成のために重要です。大規模なCO2除去が必要になったとしてもです」

CO2排出量は増え続けている

CDRには、気候変動対策の話を複雑にする側面がある。人類はCO2を除去をせざるを得ないが、CDRが解決方法として重宝されすぎると、クリーンエネルギー研究のための資金や資源を奪い取り、本来の目標から外れた方向に向かうのではないかと批評家たちは懸念しているのだ。

最悪の場合、各国が「排出を帳消しにするために、大気中からCO2を除去している(これをネットゼロと言う。COP28の合意文書は2050年にネットゼロを達成することを目標にしている)」と主張したとしよう。その場合、CDRが化石燃料を使い続けることを結果的に奨励することになるかもしれない。

CDRには主にふたつのやり方がある。それは人為的な技術を使う方法と、自然を使う方法だが、両者の融合的手法も増えてきた。現在、主流なのは直接空気回収技術(Direct Air Capture、DAC)と呼ばれる方法で、巨大な機械が空気を吸い込んでフィルターがCO2を捕まえる。空気清浄機が室内の埃を取ってくれるように、DACは大気からCO2を取り除く。また厳密には、大気中のCO2を除去する(carbon removal)技術は、発電所などで大気中に放出される前のCO2を回収する(carbon capture)技術とは異なる。

DACは生まれたての技術で、地球の温室効果ガス排出を少しでも打ち消すような規模で稼働するレベルには達していない。2021年には、2050年までに毎年約2.3ギガトンのCO2を除去するには、全世界のGDPの1%か2%相当の巨大投資を毎年行う必要があると研究者たちが試算した。

現在、世界のCO2排出量は年間約40ギガトン。そして残念なことに、減るどころか増え続けている。2021年の試算によると、これを除去するには2075年までに4,000から9,000のDAC施設が必要となる。理論的には、年間27ギガトンのCO2を大気中から除去するには2100年までに10,000のDAC施設を建設しなければならない(建設が加速するという見積もりの背景にあるのは、技術と産業が進化すれば、施設をつくるのはより簡単で安価になるという考え方だ)。

DACは大気からCO2を取り除く役に立ってくれるだろう。そして、わたしたちがCO2の排出を止めれば掃除するCO2が減って、DACはその影響力を増すだろう。だが、DAC施設の建設には多くの資金が必要だ。「速度をあげて、より大規模にすれば、現在の年間200万トンから、2050年に10億トンまで能力を上げられるものでしょうか?」とネメットは問いかける。「実はわたしは楽観的です。実現は可能でしょう。簡単ではありませんけれど。だからといって、今の政策を変えるということではないし、目標が変わるわけでもありません。わたしたちは即刻、温室効果ガスの排出量削減を開始し、2050年にはゼロ近くまで下げなければいけないのです」

たとえDACが急速に拡大したとしても、それだけで人類が自らつくりだした状況から人類を守ってくれるわけではない。仮にDACが30年間、毎年10億トンのCO2を除去し続けたとしても、人類が依然として数百億トンの温室効果ガスを出し続けていたら、お湯を注ぎながらバスタブを空にしようとするようなものだ。CDRに希望があるとしたら、例えば稼働に大量の化石燃料を要する鉄鋼業のように温室効果ガス削減が難しい産業において、将来、排出を相殺する一助になるかもしれない。一般住宅の電気を完全に太陽光発電に替えるのと違って、鉄鋼業の巨大工場に太陽光パネルを打ち付けて「はい終わり」とはいかないからだ。

化石燃料の退場が遅れてしまう

だが、こうした技術は恐ろしい“モラル・ハザード”を伴う。つまりこういうことだ。CO2を取り除く技術があるなら、どうして脱炭素を心配しなければならないのか? CO2の排出をなかったことにできるなら、太陽光パネルや風力発電なんていらないのでは? こうした考えが生まれてしまうのだ。

「PRとして見ても、これは助けにならないどころか逆効果になります。実際、何年も逆効果であり続けてきました。それが今、現に起きていることです」。そう語るのは気候変動を止める行動を提唱する「プロジェクト・ドローダウン」の役員、ジョナサン・フォーリーだ。「いまや巨大石油会社の常套句になっています。明らかに、これを口実にして化石燃料の退場を遅らせようとしています。CO2を巨大な産業技術によって回収し、解決を図ろうとすることで、本来目指すべきゴールに向かうための軌道をはずれてしまいます。これらの技術は、その意味で上手く機能しなくなるのです」

実際、COP28の合意は科学者や気候専門家が期待したような化石燃料の段階的廃止ではなく、脱却を進めることを呼びかけるに留まった。それは石油メジャーにとっても好都合だった(心に留めて欲しいのは、化石燃料を燃やして出るのは温室効果ガスだけではないということだ。粒子状の大気汚染物質は世界で5人に1人の命を奪っている。化石燃料を使うのを止めればたくさんの人々の命を救うことができるし、地球温暖化も止められるのだ)。

選択肢として、フォーリーはCDRのもうひとつのやり方を挙げる。自然に頼る方法だ。何億年もそうしてきたように、樹木はCO2を吸収して自らの細胞に取り込む。こういった“自然に依拠する解決策”の背景にあるのは、できる限りのエコシステム、とりわけアマゾンの湿地や雨林の生態系を守れば、大気中のCO2は自然に除去されていくという考え方だ。だが、残念なことに人類は逆方向に進んでいる。アマゾンは森林伐採によって劣化し、伐採された土地はCO2を吸収するどころか発生源と化している。

DACによるCO2除去は、Yトンの温室効果ガスを集める機械がX時間稼働したと計算すれば簡単に数値化できるのに対し、自然は機械のように動くわけではない。ある生態系にどのくらいのCO2が貯められるのか(すべての植物や土壌に。そして、どのくらいの期間)、科学者たちは未だ把握しきれていない。DACは長期間、地下にCO2を貯めることができるが、自然界のCO2はあまり安全ではない。森を復元しても、山火事が起きれば効果は消し去れられ(しかも地球温暖化によって山火事の規模は大きくなっている)、CO2はあっという間に大気に戻ってしまう。

政治的状況にも左右される

さらに、ある政権が苦心して生態系を復元したとしても、政権が変わればまた壊してしまうかもしれない。「明白な問題のひとつは永続性です。木を植え、土壌にCO2を戻しました。でも、より暖かくなり、危険度を増す気候の中で、どれだけCO2はそこに留まっていられるでしょうか?」。フォーリーは問いかける。「『自然に依拠する解決策』だと、ランニングマシーンに乗っているようなものです。わたしたちは走り続けて、自然を復元し続けなければいけません。ただし、人類が一生懸命に自然を復元し続ける世界も悪くないと、わたしは思います」

永続性の問題を解決するため、研究者たちはCDRへのハイブリッド的アプローチを探求している。自然とエンジニアリングを組み合わせるのだ。例えばERW(enhanced rock weathering)と呼ばれる岩石の風化促進技術は、穀物を植える前に畑に細かく砕いた玄武岩を撒く。すると岩が大気中のCO2と反応して炭酸塩となり、やがては海へと流される。同様に、バイオマス廃棄物をバイオ炭にして土壌に混ぜると、バイオマスが生成されるプロセスで大気中から集めていたCO2を土中に貯めることができる(バイオ炭を地中に埋めてもいい)。別のところでは研究者が遺伝子編集によって、より速く育ってCO2を早く吸収する木を開発している。これがうまくいけば、植林運動の大きな力となる。

優れた投資家がひとつの投資先の失敗で資産をすべて失うことがないようポートフォリオを分散するのと同じように、CDR賛成派も選択肢を多様化している。もしある技術が十分に機能しなくても、いずれ別の技術が補ってくれるかもしれない。「いろんなやり方を支援しています。それぞれに違うメリットのある選択の幅を広げてくれますから」。そう語るのは、カーボンビジネス協議会のルービンだ。「例えば、バイオ炭は土壌の肥料にもなります」

対応策の多様化は、仕事の多様化にもつながる。バイオ炭や粉砕玄武岩をつくる人、あるいはシンプルに木を植える人(9月、バイデン政権は「アメリカ気候部隊」の創設を発表した。このプログラムでは、若者に将来の災害を防ぐための環境整備活動に従事してもらう)。生態系を再生する活動は生物多様性を促し、ひいては観光客を呼び込むことで地元経済も潤う。

CDRにつきまとう懸念は、わたしたちが究極の目標を見失いかねないことだとフォーリーは強調する。それは、温室効果ガスの排出を削減することだ。「こういう会話をする時は、もっとニュアンスのある議論ができなければいけません。つまり、CDRの中には悪いと言えるものもあれば、いい可能性を秘めたものもあるのだと」。フォーリーは続ける。「とはいえ、わたしたちがしなければならない仕事の90から95、あるいは99%は、やはりCO2の排出を削減することなのです。CDRについてどんな信条を持っていようと」

WIRED US/Translation by Akiko Kusaoi/Edit by Mamiko Nakano)

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