2030年冬季オリンピック・パラリンピック招致を目指す札幌市。開催に向けて「すべての人にやさしい共生社会の実現」を掲げる。北海道内は冬季競技の開催にうってつけだ。一方、観客の移動の利便性も考えなければならない。その際、障害者の暮らしやすさを考えることが議論のたたき台になるかもしれない。健常者すら移動に困る冬季をはじめ市内の環境は障害者の目にどのように映るのか。車椅子ユーザーの視点で見ると、いくつもの不便さが浮かび上がる。共生社会の実現のため、何ができるだろう。【高橋由衣】
ガタッ。道路の脇から歩道に上ろうとした車椅子がよろめいた。この日、初めて車椅子に乗って、札幌市中心部で横断歩道を渡った江別市の大西康裕さん(35)は、周囲のサポートでなんとか歩道に移動できた。「少しの段差や道路の傾きで不安定になり、危険を感じた」と足元の障壁に困惑した。
誰もが自由に移動できる社会の実現を目指す「WheeLog」(東京都)などが主催したイベント。参加した約50人のうち7人は普段から車椅子を使う車椅子ユーザーだ。班に分かれて、健常者も代わる代わる車椅子に乗り、地下鉄やバスでさっぽろテレビ塔や札幌ドームなどそれぞれの目的地に向かった。
イベントに参加した札幌市の花田はるかさん(29)は、小学生のころから車椅子で生活する。生活圏内は頭に入っているが、初めて訪れる場所は移動手段や利用施設の下調べが欠かせず、「トイレを探すことすら大変。いちいち調べるのがおっくう」とこぼす。また、「はやりの飲食店に行こうと思っても段差が高かったり、カウンターだけだったりして断念することもある」と話す。
イベントの参加者は、当事者が抱えるこのような不便さを体感しながら、ルートにバリアフリー対応のトイレや施設内のエレベーターなどがあるのか確認。見つけたときは写真に収めた。この情報はWheeLogが運営する「バリアフリーマップ」に反映された。マップは、各地の利用者が寄せる情報を集めて紹介するという仕組みだ。
「障害の有無」は当事者以外の理解不足や無関心に左右されることもある。WheeLogの織田友理子代表も進行性の筋疾患のため車椅子生活を送る。「環境や人が変われば『障害』はなくなると信じている」。織田代表は車椅子での生活を体験してもらうことで「物理的なバリアーだけでなく、心理的なバリアーを取り除くことが重要」とイベントの狙いを話した。
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札幌市は22年、バリアフリー基本構想を公表。30年度までのハード面の整備方針に加えて、偏見や無理解をなくす「心のバリアフリー」の浸透を図るソフト面の強化を盛り込んだ。
まず、ハード面の整備は、駅や道路などの施設ごとの計画に沿って、市福祉のまちづくり条例や国が示す基準に基づいて進められる。1日当たり3000人以上が利用するJRの駅や、市営地下鉄の駅の周辺55地区を「重点整備地区」に指定。大規模な宿泊施設や医療機関でバリアフリートイレを設置したり、周辺の道の段差や勾配を解消したりすることなどによって、地区内の移動を円滑化する方針だ。
課題となるのはソフト面。「現場のサポート」だ。ハード面の整備を進めたとしても、積雪時などのように誰かのサポートが必要とされる場面もある。織田代表の言う「心のバリアフリー」が欠かせない。
このため、札幌市は企業や市民を対象にした研修や出前講座の開催を続けている。しかし、周囲の意識に変化を感じられない当事者も少なくない。進行性の難病で、高校生から車椅子を使う市内の20代男性は「代筆を頼んだり、バッグから物を取ってもらったりするとき、あまりよい顔をされないこともある……」と周囲の対応に疲弊した経験を吐露する。また、車椅子対応のタクシーでも運転手が「車椅子の扱いに慣れていない」などの理由で乗車拒否された経験もあるという。
札幌市のバリアフリー基本構想の策定にも関わった北海道科学大(都市計画学)の石田真二教授は「網にかかっていない人たちにどう配慮するか」と指摘する。
「網にかからない」とは、統計に表れない「困っている人」たちのこと。例えば、重点整備地区の外で生活する人たちへの対応、現行の規定でバリアフリー化の対象外となっている小規模のスーパーや飲食店の整備などで戸惑う障害者を目にすることもあるだろう。一律の基準でなく、「地域性を見直す作業も必要になってくる」と話す。
さらに、心のバリアフリーについて、石田教授は「外出の判断ができるような情報を提供しつつ、地域内のサポートも必要。定着にはさらに教育に力を入れていかなければならない」と指摘する。WheeLogの取り組みはその一助になるかもしれない。今後のまちづくりについて「移動を我慢したり覚悟が必要だったりする人たちの『行ける』が広がる街」を目指すべき姿とした。
からの記事と詳細 ( 札幌ってどんな街?車椅子目線で浮かび上がるバリアフリーの課題 - 毎日新聞 - 毎日新聞 )
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