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2022年5月時点、為替相場は円安で推移していますが、日銀は金融緩和政策の継続姿勢を崩していません。
しかし、金融政策が引き締め方向へと転換したら、収益不動産の価格にはどのように作用するのでしょうか。不動産価格と金利との関係性は、しばしばイールドギャップの仕組みから説明されます。
この記事では、円安によって金融政策が転換し、金利が上がった場合、収益不動産の価格はどうなるのか、イールドギャップの仕組みの観点から考えていきます。
目次
- 円安と金融政策の転換
- イールドギャップと不動産投資
2-1.イールドギャップとは
2-2.金利上昇とイールドギャップ
2-3.不動産投資への影響
- 円安による海外投資マネーの流入、原材料の高騰などの要因にも注意したい
- まとめ
1.円安と金融政策の転換
2022年3月以降のドル高円安の流れは、4月末に1ドル=130円台を突破してから一服しているものの、5月時点でも継続して1ドル=120円台後半の円安状態にあります。
日銀は、金融緩和政策の維持を決定し、必要であれば追加緩和も検討するとの姿勢を崩していません。日本経済の現状は、需給ギャップが大きく、インフレ基調が極めて低いため、円安を容認するとのスタンスです。(※参照:日本銀行「金融政策決定会合における主な意見(2022 年 4 月 27、28 日開催分)」)
しかし、インフレ懸念が強まり、金融政策が引き締め方向に転換し、政策金利を引き上げて市中金利も上昇した場合、不動産投資にはどのような影響があるのでしょうか。不動産投資とイールドギャップの仕組みとの関係を中心に考えてみましょう。
2.イールドギャップと不動産投資
まず、イールドギャップの意味、仕組みについて大まかにみていきましょう。
そのうえで、金利上昇がイールドギャップにどのように作用するのか、そして、不動産投資にはどのような影響を及ぼすのか、考えていきましょう。
2-1.イールドギャップとは
イールドギャップとは、収益不動産の利回りと市場金利との差のことを指します。
10年国債などの債券は民間企業が発行する株式などと比較して低リスク資産とみなされ、年金基金や保険会社などの機関投資家の投資対象となります。担保性の高い収益不動産もリスクは高くないと見なされることが、機関投資家の投資対象として、その利回りが、10年国債としばしば比較されます。
このような背景から、東京都心の収益不動産の利回り(J-REITの利回り)と10年国債の利回りが、イールドギャップとして算出されることがあります。イールドギャップが大きければ、機関投資家や海外投資家などの投資マネーが、他の投資対象の代わりに収益不動産に流入しやすくなります。
また、不動産投資家は、借入金によって資金を調達して収益不動産に投資するため、市場金利に紐づく借入金の金利と収益不動産の利回りとの差が、不動産投資の収益に直結します。イールドギャップが大きいほど、不動産投資家の収益も大きくなり、収益不動産の需要も増大するといえるでしょう。
2-2.金利上昇とイールドギャップ
長期にわたって日銀は長短金利操作付き量的金融緩和を推し進めて来ており、10年国債の利回りをゼロ%程度で推移するようにコントロールする政策を採っています。(※参照:日本銀行「2%の「物価安定の目標」と「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」」)
この金融政策を金融緩和から引き締めへと転換し、政策金利が上げられるとイールドギャップはどのように動くでしょうか。
10年国債の利回りが上がるため、収益不動産の利回り(J-REITの利回り)が一定であるならば、10年国債の利回りとの差は小さくなります。また、不動産投資家が資金調達する際の借入金の金利も上がり、収益不動産の利回りとの差が小さくなります。
このように、収益不動産の利回りが一定である状態で金融政策が金融引き締めへと転換することで、イールドギャップは小さくなるといえます。
2-3.不動産投資への影響
日銀の金融政策が金融引き締めへと転換したとすると、イールドギャップが小さくなり、収益不動産の購入ニーズは減少し、不動産投資市場は冷え込んでいく可能性があるといえます。
また、現状の不動産投資市場は、日銀の長期的な金融緩和政策が金利市場を歪めてしまい、イールドギャップを適切に評価できていない可能性が指摘されることがあります。この指摘はつまり、「低金利状態が長く続いたことで収益不動産の価格が上昇したが、金利上昇リスクが充分に反映されていないのではないか」ということです。
このような観点からも、金融政策が金融引き締めへと転換して金利が上昇すると、収益不動産の購入ニーズが過熱していたことで価格部分を押し下げる方向に作用する可能性は高いと言えるでしょう。
3.円安による海外投資マネーの流入、原材料の高騰などの要因にも注意したい
円安で金利が上がると、イールドギャップに影響を及ぼすだけでなく、国内経済市場に様々な影響が生じます。
インフレによって輸入原材料や燃料などが高騰し、不動産の建設費やリフォーム費用が値上がりすれば、収益不動産の取引価格を押し上げる方向に働きます。
また、円安は、時系列でみれば将来的な円高が想定されるため、外国人投資家からすると自国通貨ベースの投資リターンも期待できます。不動産投資市場への海外投資マネーの流入は、不動産価格の上昇要因になるといえるでしょう。
そのうえ、不動産価格は市中金利のようなマクロ的な要因だけでなく、不動産が所在する地域の人口動態や個別不動産の状況などのミクロ的な要因にも影響を受けます。
このように、不動産投資市場には様々な要因が複合的に影響を及ぼし合っており、円安で金利が上がったとしても、必ずしも投資対象の不動産価格が下落するとはいえません。不動産投資市場において、それぞれの要因がどのように作用しているのか、そして、どれぐらいの程度で作用するのか、複合的な視点で情報収集や考察を心がけるようにしましょう。
まとめ
イールドギャップとは、収益不動産の利回りと市場金利との差のことを言い、イールドギャップが大きいほど、収益不動産の価格を押し上げる方向に作用します。
日銀が採用している金融緩和政策が引き締めへと転換し、金利が上昇したとすると、イールドギャップが小さくなり、収益不動産の価格は下落しやすくなるといえるでしょう。
ただし、実際に不動産価格が下がるかどうかは、円安が国内経済市場に与える様々な要素が、不動産投資市場にどのような影響を及ぼすかを複合的にみていく必要があるでしょう。経済情勢に関する情報収集をおこない、不動産投資市場に与える影響について考察するようにしてみましょう。
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筑波大学大学院修了。会計事務所、法律事務所に勤務しながら築古戸建ての不動産投資を行う。現在は、不動産投資の傍ら、不動産投資や税・法律系のライターとして活動しています。経験をベースに、分かりやすくて役に立つ記事の執筆を心がけています。
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